社長ヌカちゃんの部屋

BANCO

経済政策の基本線

(本稿は、時事通信社発行の「金融財政」9月6日号「BANCO」欄に掲載されたものです)

額賀 信[ちばぎん総合研究所取締役社長]

  自民党が参院選で大敗して以来、経済政策の基本方針が揺らいで見える。これまで「骨太の方針」で示されてきた経済政策を一貫して具体化していけるのかどうか、雲行きが怪しくなってきた。格差問題への関心の高まりや、民主党による農業の「戸別所得補償制度」の創設提案もあって、かつてのばらまき政治が復活しそうな気配もある。何よりも政治とカネ、あるいは閣僚や議員のスキャンダル絡みの事件が頻発し、本格的な経済政策論議の進まないことが問題だ。
  検討を要する問題は山積している。中央と地方、大企業と中小企業、正社員と非正社員の間にある格差問題、格差をもたらす一つの要因となっているグローバル経済への対応、米国サブプライム住宅ローンの焦げ付きを発端とした市場の動揺と景気の先行き懸念など、重要問題が目白押しだ。しかも、これらの問題に対応しながら持続的な成長戦略を探り、財政赤字削減を実現していくという重い課題がある。対応が遅れたり、方向を間違ったりすると、曲がりなりにも続いてきた景気回復の腰が折れるだけではない。人口減少社会を迎えたわが国の衰退が一気に進むことにもなりかねないだろう。
  多くの問題があるだけに、基本が重要だ。それを確認してみたい。第一は、ばらまき政治からは持続的な景気回復の力は生まれないことだ。効率と経済原理を無視したばらまきは無駄が多く、問題の先送りになることは1990年代の公共投資が示している。その教訓を忘れずに、格差問題への対応も一時しのぎの所得補填(ほてん)ではなく、稼ぐ意欲と力をどのように持続的に高めるのか、という視点が不可欠だ。
  次に財政赤字削減への取り組みは、緩めてはならない。たまたま今は、好景気が続いて税収が増加しているため、財政赤字問題の認識が薄れがちだが、わが国の財政が巨額の赤字を抱え危機的状況にあることに変わりはない。財政は一国経済の根幹で、その赤字にはわが国経済の問題が凝縮して表れている。歴史上、財政赤字の垂れ流しを放置して栄えた国はない。政府は、国・地方のプライマリーバランス(基礎的財政収支)を2011年度までに黒字化することを目標としているが、どんなに苦しくても、そこからの後退はあってはならないだろう。行財政改革努力は不可欠である。
  その上で成長戦略が重要だ。政府は生産性の引き上げを成長戦略の柱に据えている。生産性の引き上げは当然に必要としても「成長力加速プログラム」で示された供給側重視の対応だけで十分なのか検討が必要だ。いや応なしに進む経済のグローバル化、ソフト化への対応をどのように進めるのかも、戦略的議論の必要な分野である。
  政治状況を見ると、閣僚、議員の不祥事表面化が続いている。政権が弱体化すると、人気取りへの配慮が優先されて、なし崩しに経済政策の基本が崩されていくことになりやすい。とりわけ衆議院と参議院のねじれ現象がある中で政権をめぐる攻防が激しくなると、問題先送りの甘い処方箋(せん)ばかりが生み出される懸念がある。しかし、人口減少社会を迎えるわが国にそんな余裕はない。難しい時期だからこそ、経済政策の基本を守ることが大切だ。
  政治とカネの問題はもとより重要だが、その問題を追及するだけで国民の生活が豊かになるわけではない。政治の混迷が続けば、経済の安定的発展はない。政界もジャーナリズムも、本格的な経済論戦を展開することを期待したい。

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