社長ヌカちゃんの部屋

その他随想

格差は縮小するか

(本稿は、1月24日付兜s動産経済研究所「不動産経済FAX-LINE」に掲載されたものです )

額賀 信[ちばぎん総合研究所取締役社長]

  今年の経済展望では、景気の回復が続くかどうかという問題以上に関心を集めている課題がある。それは回復感が広がるか、格差が縮小するかという問題である。2002年から始まった今回の景気回復局面では、回復感を実感できないとする声が強かった。また、格差拡大の問題も浮上した。実際、大都市と地方、大企業と中小企業、製造業と非製造業の間には景況感にも大きな違いがある。だから、今年は格差が縮小し回復感が広がるかたちで景気回復が続くのか、という問題提起には切実感がある。格差は縮小するのだろうか。
  この問題に答えようとすると、今回の景気回復の特色を確認しなければならない。その特色は、とりわけ名目国内総生産(GDP)に顕著に現れている。事業経営が基本的には名目ベース(金額ベース)で行われている以上、景況感を示す数字としては、名目GDPの方が適切なのである。不況局面であった2001年度と2006年度(政府実績見込)を比べてみると、名目GDPは494兆円から511兆円と、5年間で17兆円しか増えていない。この間の伸びは、年率でわずか1%以下である。しかも2006年度の511兆円という水準自体、過去のピーク(1997年度、513兆円)をなお下回っている。経済活動の水準も低いのである。経済活動の伸びも水準も低いということは、停滞の続いている地域や規模、業種が少なくないことを意味している。こうした状況で好況感が経済全体に広がることは、そもそも難しい。つまり今回の景気回復局面では、確かに期間として長い「回復」は続いてきた。しかしその経済活動は伸びも水準もきわめて低く、「好況」からは遠い回復だったのである。
  名目GDPを需要項目別にみてみよう。2001年度から2006年度にかけて大きく減ったのは、公的固定資本形成(公共投資)であり、2001年度の32兆円から2006年度の22兆円まで10兆円も減額した。ピーク(1995年度、42兆円)に比べると実に半減である。公共投資に大きく依存した地域や建設業者に不況感が強いのは、当然なのである。この間、民間最終消費は283兆円から290兆円へとかろうじて増加したが、伸び率はGDP総額の伸びよりさらに低く、GDPに占めるウェイトも低下した。消費が牽引力を発揮していないから、消費に依存する小売、サービス業界でも停滞感がなお強い。
  一方で急激に増えたのが輸出である。輸出は52兆円から84兆円まで、なんと6割も伸びて回復の強力な推進役となった。GDPに占めるウェイトも2001年度の10.6%から2006年度の16.3%まで大きく上昇した。民間設備投資もまた輸出関連業界を中心に69兆円から81兆円まで伸びて相応の牽引力とはなったが、この回復過程では輸出の規模が民間設備投資の規模を上回ることになった。国内景気に占める輸出の重要性が圧倒的に高まったことこそ、今回景気回復局面の最大の特色である。輸出の活況を反映して、輸出関連業界では好況感が強い。
  もう一つ見落とせないのは、この間における輸入の急増である。輸入は48兆円から77兆円まで伸びて、GDPに占めるシェアも9.8%から15.0%まで高まった。この結果輸出と輸入を合わせたGDPに対するウェイトは、2001年度の20.4%から2006年度の31.3%まで10%以上も上昇した。対外取引のウェイトが劇的に高まっているのである。
  問題は、2007年度の動きである。政府見通しによれば、消費は小幅の伸びにとどまり、GDPに占めるシェアを下げることになる。牽引役となるのは引き続き主として輸出であり、次いで民間設備投資である。輸入も伸びるから対外取引のウェイトは一段と上昇し、世界経済との一体化がさらに進むことになる。つまり経済成長の伸びもそのパターンも、過去5年間のそれと基本的に同じである。こうした状況で好況感が全体に広がることはむずかしいだろう。格差も簡単には縮小しないと考えるべきである。
  格差との関係で重要なのは、対外取引のウェイトが大きく高まるにともない、世界経済との一体化が急速に進展していることである。かつて価格破壊といわれた現象があった。例えばロードサイドショップの背広をはじめとする衣料品の価格が急速に下がった時期があったが、それは「国際価格への接近」という現象でもあった。世界経済との一体化が進む過程で、一物一価の原則が世界的に広まり、それがわが国にも波及してきたのである。現在は海外取引のウェイトが急速に高まる中で、単にモノだけでなく、サービスや労働(賃金)に対する価格破壊の動きが広まっている。誰でもできること、どこでもできること、そうした仕事はどんどん国外に流れていく。また外国との競争上、誰でもできるサービスや労働の国内価格はどんどん下がる。それは、「第二の価格破壊」とも称すべき現象である。逆にこれを無理に阻止しようとすると、わが国の国際競争力が弱体化し、成長のエンジンそのものが失われる。世界的に広がるサービスや労働に対する価格破壊の動きを勘案すると、格差の縮小は容易ではない。
  もちろん格差を生み出しているのは、国際的な要因だけではない。国内的には、人口集積の地域別ばらつきが、格差拡大の重要な一因となっている。問題は、これらの要因はいずれも政策的に操作しにくいことである。そうだとすると、企業も人も他ではできないことを考え実行しなければいけない。その力を高める工夫をしていかなければいけない。そうでない限り、国際価格の荒波に飲み込まれてしまうだろう。

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