社長ヌカちゃんの部屋

その他随想

即戦力と企業の“こだわり”

(本稿は、「週刊金融財政事情」9月17日号「時論」に掲載されたものです)

額賀 信[ちばぎん総合研究所取締役社長]

  当社(ちばぎん総合研究所)は総勢45人程度の中小企業だが、ご多分にもれず人手不足になってきた。当社の調査員、コンサルタントは、これまで本体(千葉銀行)からの出向者で構成されてきた。今回は、人材の早急な拡充を図る狙いで中途採用に踏み切ることにして、何人かと面接してみたものの、いずれも採用には至らなかった。当社からみて肌合いが違うと思った人もいるし、逆に応募者からそのようにいわれたこともあった。まだわずかな経験だが、それでも感じたことがある。
  一つは、職業人として長く同じ会社に勤めていると、どんな人でも何がしかその会社の雰囲気を身につけていることだ。今回採用したい人材は50代のコンサルタントである。応募者はいずれも一つの会社を勤め上げた人達ばかりだったが、それだけの期間同一の会社にいると、その会社の雰囲気を自然に発散するようになる。経歴を知ったからそう思ってしまう面もあるだろう。しかし会社には会社固有の人の育て方がある。長く勤めた職業人は、良きにせよ悪しきにせよ、育った会社の雰囲気を濃厚に漂わせているのである。
  もう一つは、即戦力を期待しすぎてはいけないことだ。当社も設立以来20年近く経っている。中小企業とはいえ、大切にしてきたものがある。仕事の進め方、顧客との接し方、料金設定の考え方にもこだわりができている。ある人がある会社の戦力としてよく働けるためには、組織の大切にしているこだわりを身につける必要がある。そしてそのためには、どんなに有能な人でも一定の時間がかかるのである。
  会社は、知識と技術と資本でのみ成り立っているのではない。会社を会社たらしめているのは、事業を進める過程で積み重ねられた仕事へのこだわりである。そしてそのこだわりは、会社で育った人材により、仕事を通じて生み出され、保たれ、伝えられる。だから職業人は知らず知らずその雰囲気を振りまくのである。逆にこだわりの強い会社ほど人材の戦力化には時間がかかることになる。
  いまの世の中では、転職と中途採用が一般化している。一つの会社で長く勤めようと思う人はむしろ少数派かもしれない。企業買収も盛んである。中途採用も企業買収も、その狙いの一つは時間の節約である。つまり即戦力の確保である。しかし即戦力を求めれば求めるほど、会社はそのこだわりを捨てざるをえないことは知っていなければならない。
  会社固有の仕事の進め方にこだわりすぎてはいけないだろう。しかし人だけ集めても、あるいは企業を買収しても、会社の経営がうまくいくわけではない。人材の流動化が止めようもなく進んでいるからこそ、会社にとって捨てられないこだわりが大切だ。それを植え込むための人材育成の視点がこれまで以上に重要になっている。

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