人口減少社会が到来した日本は、多くの地域で人口が減っていく。人口減少地域で購買力を高め持続的な経済発展を図るためには、他の地域から人を呼び寄せ、消費につなげる必要がある。
そこで、観光産業の役割が重要になってきた。人の訪れる地域は発展し、人の訪れない地域は衰退する――。それが実感されるようになって、観光に対する人びとの期待も急速に高まったというわけだ。当然ながら、観光資源への関心も高まってくる。
名所・旧跡、文化財などの観光資源を持つ地域は、これを世界遺産に登録しようと盛んに働きかけるようになってきた。その一方で、観光資源のないことを嘆く地域も少なくない。では、観光資源に恵まれない地域で観光を発展させるためには、何をしたらよいのだろうか。
人を呼べていない京都、奈良
注目すべき観光統計がある。昨年6〜8月の期間に調査され、その結果が今年1月に国土交通省から公表された「宿泊旅行統計調査」である。47都道府県共通の基準による初の全国調査で、これによって今までよく分からなかった都道府県別の宿泊者の実情がかなり明らかになった。
調査結果は、興味深い内容となった。伝統的な観光地と考えられ、歴史的建造物など豊富な文化財を多く有する京都府や奈良県は、十分に観光資源を活用しきれていない印象が強いのだ。
調査期間の延べ宿泊者数は全国で7760万人(表)。都道府県別では、東京都が1位、北海道が2位となっている。そして京都府は、宿泊者数で兵庫県に次ぐ11位と順位は高くない。
さらに奈良県は、宿泊者数が34万人で46位と低迷、宿泊施設の稼働率は33.7%で44位。奈良県は宿泊者数、宿泊施設の稼働率ともに47都道府県中で最下位に近い結果となっている。
京都府、奈良県は名所・旧跡の宝庫である。古都京都と奈良の文化財は世界文化遺産に指定され、奈良の文化財である法隆寺地域の仏教建造物も世界文化遺産として指定されている。宿泊旅行統計の調査対象となった6〜8月は、京都府、奈良県にとってはオフシーズンだったという事情はあるが、今や有名な観光遺産があるというだけでは観光客を呼べない時代なのである。
京都や奈良が低迷する一方で、今年に入ってから観光客が大幅に増えた地域がある。それは千葉県だ。千葉県は、今年の2〜4月にかけて、「デスティネーション・キャンペーン」(DC)の対象地となった。
DCとは、地方自治体や地域観光関係者がJR6社(北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州)の協力を得て実施する大型観光キャンペーン。JR6社がキャンペーン対象地の魅力を全国に向けて集中的にPRするので、大きな集客効果がある。
千葉県の発表によれば、同期間中の千葉県への観光入込客数(県外と海外から訪れた観光客数)は前年同期比7.9%増、宿泊者数は前年同期比3.9%増加している。7月に国土交通省から出された『2007年版観光白書』によれば、近年の国民の宿泊数は減少傾向をたどり、観光消費額も横ばいで推移しているという。千葉県もこれまではその影響を免れられなかったから、DC期間中の観光客増は、観光地のPRの重要性を示しているといえる。
つまり、ある地域に観光資源が存在するだけでは、観光客はその地域を訪れない。観光地が観光客を招く工夫をすることで初めて、観光客はその地域を訪れるようになる。観光ビジネスとは、「お越しください」と人を誘う産業なのだ。
観光で成功している地域は、観光客を呼ぶ工夫をしている。
たとえば、新潟県の「越後田舎体験」は昔ながらの棚田をPRしている。長野県小布施町は江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎が小布施町滞在時に描いた肉筆画を美術館に展示し、栗を町の名物として売り出している。千葉県香取市は、利根川下流域の低湿地帯である「水郷」と祭りで演奏される音楽「佐原囃子」を売り物にしている。滋賀県長浜市は、黒い漆喰の和風建築が並んだ情緒ある街並みの「黒壁スクエア」が人気である。愛媛県内子町も、古い商家の町並みを復活させて観光客を呼び込んでいる。
京都や奈良のように特別な観光資源を潤沢に持たずとも、地域の人びとが地域の魅力を発見し、高め、それを地域の外に発信することで、観光客を集めることができたのだ。

持続性こそ観光振興に必要
観光振興には持続性が必要である。先に述べた千葉県のキャンペーンでも、観光客増加が一過性の動きに終わってしまうのであれば、観光は地域を発展させる力を失うだろう。観光の持続性を高めるためには、訪れた観光客に良い思い出を持って帰ってもらうことが不可欠だ。
観光地の誘致活動→観光客の良い思い出作り→観光地の評判向上→観光客のリピーター増加→観光地の誘致活動に弾み――という「観光活性化サイクル」を構築できれば、次の観光客誘致につながる。
この「観光活性化サイクル」が根付くことが地域発展の基本だが、そのスタートは誘致活動である。実際、その地域に住んでいる人ほど、自分の地域の魅力に気づかない傾向がある。そこで、誘致活動を進めることによって、地域の人びとはその魅力を見つけ出し、伸ばす努力を始めることができる。
地域の人びとは、誘致活動を通じて顧客が何を求めているかを知り、それまで気づかなかった自分の地域の潜在的な可能性を認識する。地域の魅力こそが観光資源だが、それは、誘致活動を通じて考えられ、形成されていく。誘致活動こそ「観光活性化サイクル」のスタートである。
なぜならば、そもそも人を誘う意識・行動がなければ、観光資源は関心の対象とならないからだ。
誘致活動を推進するうえで、自治体の役割は重要だ。多くの自治体では最近ようやく、観光を地域経済活性化の推進力として認識し、振興する方針を打ち出すようになってきた。だが、自治体の方針が地域に浸透しているとは言いがたい。
また、今やインターネットは観光誘致に欠かせないツールだが、各自治体のホームページには共通の問題点がある。
1つ目は、情報発信がほとんど地域内住民に向けられていることだ。本気になって他の地域の住民を呼ぼうという意気込みが感じられるホームページは極めて少ない。
2つ目は、地域の魅力が十分に伝えられていないことだ。そもそも自分たちの地域の魅力について十分に検討していない地域が圧倒的に多い。地域の魅力を伝える簡潔で的確なキャッチフレーズがない。そのキャッチフレーズは、地道な誘致活動の積み重ねから生まれてくる。
製鉄業界の人びとはつい最近まで、「鉄は国家なり」と自ら語っていた。明治時代以降、製鉄業は国の最も重要な素材産業として日本の近代化の担い手となった。この言葉には、鉄は産業の母であり、製鉄業こそが国家を支える基幹産業であるという自信と自負があった。同様に、「観光は地域なり」という言うべきだろう。これからの観光は、地域経済を支える最も重要な基幹産業である。とりわけ人口が減少する地域の経済活力を高めようとすれば、観光振興は避けることができない。地域の発展を支える基幹産業という意味で、「観光は地域なり」なのである。
観光資源とは地域の魅力である。それは誘致活動を通じて磨かれる。そして、どの地域にも共通の究極の観光資源は、観光客に接する地域の「人」である。地域の一人ひとりがどれだけ「魅力的な人」になれるか、それが地域の観光の将来を決定する。「人」は、「魅力的な人びと」がいる地域を訪れるのである。
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