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その他随想
TPP参加がもたらす円高是正
(本稿は、「週刊金融財政事情」12月19日号「時論」に掲載されたものです)
額賀 信[ちばぎん総合研究所顧問]
経済学の教科書には書かれていることだが、一般に国内で生産される財・サービスには、貿易財と非貿易財がある。貿易財は輸出入取引の対象となる財、非貿易財は交易されない財だが、本来的に交易の対象となりにくいサービスと、本来的には交易の対象となるにもかかわらず行政的な規制により交易を制限された財・サービスとがある。交易を制限するのは、業界保護、制度維持といった政策的な観点からだが、ここではそうした財・サービスを政治的非貿易財と呼ぼう。
政治的非貿易財の問題は、概して生産性が低く、国際競争力が弱いことである。だから政治的非貿易財が多いほど、そしてその分野の実質的競争力が弱いほど、貿易財によって形成される実際の為替相場は、総合的な経済の実力よりも円高方向へ振れることになる。かりにその分野を開放すれば、わが国の経常黒字は縮小し、その分円高圧力は後退する。
戦後のわが国は、弱いと考えられる分野では国際競争を制限し、強い部門でだけ競争するようにしてきたから、どうしても本来のわが国全体の実力以上の円高になる傾向が強かった。円高論議では、しばしばアメリカの謀略説やわが国の金融政策対応が取り上げられるが、これまでの円高の少なくとも一部は、こうした保護政策・産業政策の結果として、つまり私たち自身の選択の結果として実現してきたのである。
目下TPPへの参加問題が大きな論議を呼んでいるが、そうした論議で不十分なのは為替相場に対する視点である。TPP参加問題とは、要するに政治的非貿易財の開放問題である。例外品目の取扱いで程度の差はあるが、参加が実現すれば、円高是正の力が働いてくる。少なくともわが国の本当の実力に見合った円相場が形成されてくる。
もちろん円高は悪いことだけではない。のみならず日本経済の実力に見合った円高なら、それを受け入れていかなければならないだろう。しかし現在は、交易を制限している結果として実力以上に円高が進行し、日本を支えてきた製造業は海外移転を余儀なくされている。国内の雇用機会はますます減少する。そのようにして経済先細りの懸念が一段と強まっている。諸外国からみても、円高の一因を自ら作り出していながら、強引な介入でその円高是正を図ろうとするわが国の対応には不満が募るところだろう。
大切なことは、今日のように経済がグローバル化し、かつわが国のように巨大な経済力をもつ国では、「いいとこどり」はできないことだ。円高は嫌だが、市場開放にも反対だというわけにはいかないのである。国内の弱い部門でもそれなりの国際競争を受け入れることによって、初めて国として整合的な為替相場が形成されることになる。それが長い目でみれば必ず安定的な発展につながってくる。円高是正の視点からTPPへの参加問題を検討することも必要である。
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