ヌカちゃんの部屋

経済人

ギリシャの悲劇

(本稿は、時事通信社発行の「金融財政ビジネス」10月31日号「経済人」欄に掲載されたものです)

額賀 信[ちばぎん総合研究所顧問]

  7月以降の金融資本市場の混乱は、ギリシャ危機がきっかけだった。ギリシャがデフォルト(債務不履行)に陥り、それが他の欧州連合(EU)諸国に波及する場合は、これら問題国向けの債権を大量に抱えている銀行の経営も揺らいでくる。銀行経営に対して不安が高まれば資金の流れが滞り、世界景気が再び大きく後退する。こうして国家債務危機に銀行経営危機の懸念が重なって、市場は動揺を続けてきた。実際、ギリシャの資金繰りは、綱渡りの状況だ。同国では、EUと国際通貨基金(IMF)からの追加融資の条件となっている財政緊縮策を盛り込んだ法案が10月20日に可決されたが、年金カットや公務員の削減などに不満を募らせる国民は、大規模なストを繰り返している。
  問題となっているのはギリシャの財政赤字だが、それは2008年のリーマン・ショック以降の景気刺激策だけが原因となったわけではない。ギリシャでは、国民の人気取りを目的としたばらまき主体の放漫財政が長い間続いていた。しかもその財政赤字は、過去意図的に隠蔽(いんぺい)されてきた。公務員比率が高いのも財政を圧迫している一因だが、政治家のコネで公務員として採用される人々が少なくないと言われている。
  一連のギリシャの混乱を見て気付くことがある。一つは、ギリシャにおける連帯あるいは国家意識の欠如である。経緯はどうであれ、全体として見れば、ギリシャは借金を増やしながら過大な消費をしてきたことになる。身の丈に合わない消費生活を享受していれば、いずれどこかでそのつじつま合わせが発生する。何よりも、国債発行という形で増えていた国の借金は、きちんと返済しなければいけない。それは、国際社会に対するギリシャの最低限の責務でもある。
  だからギリシャは、本来歯を食い縛ってでも財政を切り詰め、消費を削減せざるを得ないはずである。その時にストが頻発するとは、一体どういうことか。もちろんそれには、政治システムの機能麻痺(まひ)あるいは政治に潜む腐敗への反発が影響しているに違いない。しかし、ストで混乱が拡大しあるいは融資を受けられなくなれば、ギリシャの景気は一段と悪化する。結局困るのはギリシャ国民である。ストをする国民も統治機能を発揮できない政治家も、共に国際社会からは軽んじられることになる。危機にあっても国内の一体化あるいは連帯を実現できないところに、ギリシャの本質的な問題がある。
  もう一つは、放漫財政のリスクである。ギリシャのような危機に直面すると、財政赤字がいかに危険なものかがよく分かる。それは、国民の不満を和らげるために増えてきた。どこの国でも国民の不満は共通だ。所得を持続的に引き上げる有効な成長政策を打ち出せない。徴税システムの機能低下で不公平が拡散する。そうして国民の不満が増大すると、国民からの信認が乏しい政府ほど安易な国債の増発に依存するようになる。だから、財政赤字は国民の政治に対する不満と不信の表れであり、同時に政治システムの機能不全を示す代理変数でもある。それは危機になると、必ず問題化する。
  ギリシャは、その古典古代の時代、今日の文明の基礎をつくった。政治も哲学も科学も、淵源(えんげん)をたどると、ギリシャにたどり着く。ペルシャの侵攻からヨーロッパを守ったのもギリシャである。その後、人種の混淆(こんこう)はあったかもしれない。しかし、偉大な歴史を持つ国が、今や世界の「お荷物」となっている。それはまさに「ギリシャの悲劇」である。
  ギリシャの混乱は決して他人事ではない。明日のわが国の姿がそこに映し出されていないだろうか。ギリシャの悲劇が日本の悲劇とならないよう、私たち自身心しなければいけないはずである。

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