Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

トランプ関税と為替相場の行方

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2025年5月13日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 ドル円相場は、数度にわたる米トランプ政権の大幅関税の発表を受けて一時1ドル140円近くまで円高に振れたあと、直近では140円台後半となっている(下図)。

 トランプ関税のドル円相場への影響は円高・円安双方向が考えられる。大幅関税で米国経済が大きく落ち込むなどと予想されれば、「米国売り」が想定され米株・債券・為替のトリプル安となる。4月上旬に相互関税が公表された後にドル安・円高が進んだのはそうした背景によるものだ。

 一方、米国経済の落ち込みが緩やかなものにとどまるとみられる場合には、関税によるインフレ率上昇に焦点が当たる結果、米国の金利高止まりを通じドル高に繋がりうる。足もとでは、関税交渉進展に対し楽観に振れていることに加え、日銀の利上げ時期が後ズレするとの期待もあって、日米金利差が意識され再びドル高方向に振れている。

 トランプ政権の為替政策の方向性も重要だ。一時、トランプ政権が貿易赤字縮小の観点からドル安・円高を要求するとの見方が市場で拡がったことが、円高を後押しした面もあった。その後、為替は議題に上らなかったと伝えられ、ドル高方向への動きに寄与した。今のところ、ドル安になれば関税と併せ米国のインフレを加速させるため、トランプ政権はドル安を強く望んでいないとされる。ただし、トランプ政権の為替政策は不透明であり、今後も市場はその動向に一喜一憂しそうだ。

 以上のように、トランプ関税がドル円相場に及ぼす影響は複雑であり、為替市場は気まぐれであることも踏まえると、先行きの展開は読みづらい。

 ただ、年初のひまわり定期講演会で示した「25年のドル円相場は1ドル130~150円程度のレンジで、どちらかというと140~150円程度」との見方を、現時点では維持しておきたい。これは、トランプ政権はビジネス環境に対する過度なマイナスの影響を回避する観点から、各国との関税交渉がある程度進展するとの見方に基づくものである。

 一頃に比べると円安が修正されたとは言え、両国の物価水準から計算される購買力平価が95円程度であることを踏まえると、140~150円程度はなお相当な円安水準だ。ただ、円高が急激に進めば、輸出企業への影響を通じて株価や日本経済を大きく下押しするリスクもあるだけに、この水準で安定することを当座良しとしたい。

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