トランプ関税で下振れ─OECD世界経済見通し
(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2025年3月19日号に掲載)
前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]
今週初、OECD(経済協力開発機構)の世界経済見通しが公表された。副題は“Steering through uncertainty”(不確実性の中での舵取り)。
特徴は、米トランプ大統領の関税政策を織り込み、世界の経済成長を下振れ、インフレを上振れさせていること。
予測の前提として、トランプ関税について、米国の中国及びカナダ・メキシコへの関税とその報復関税、鉄鋼・アルミに関する関税を織り込む。4月開始が検討されている「相互関税」(他国の対米関税が高ければ米国がそれと同等の関税を課すもの)や自動車関税は織り込んでいない。
世界の経済成長見通しをみると(表1)、24年+3.2%のあと、25年+3.1%、26年は+3.0%と緩やかな減速を予想、12月対比では下振れ(25年▲0.2%、26年▲0.3%)。
一方、世界のインフレ率見通しは(表2)、24年+5.3%のあと、25年+3.8%、26年+3.2%と緩やかに鈍化するものの、12月対比では上振れ(25年、26年ともに+0.3%)。
国別にみると、メキシコ、カナダの成長下振れ・インフレ上振れが目立ち、米国への影響も相応に大きい。トランプ関税は、自国産業の保護も目的の一つとしているが、関税による物価高や隣国の経済悪化を通じた負の影響が米国にも及ぶと予測されており、米国自身が「返り血」を浴びる姿となっている。
なお、関税の影響が懸念される中国の成長見通しはほぼ据え置かれているが、景気刺激策の効果が関税の影響を相殺すると考えたようだ。
金融市場などでは、来年秋の中間選挙が視野に入り始める本年秋以降には、減税や規制緩和を含めプロビジネスな政策が採られ、関税についても現実的な対応にシフトしていくとの見方がなお少なくない。ただし、最近のトランプ政策は常軌を逸している感も強いだけに、強硬な関税政策が長期化し、世界経済に無視しえぬ影響を及ぼすとの見方も徐々に増えているようでもある。
今回のOECD見通しは相互関税などを織り込んでいないだけに、それらが実行に移されれば、世界経済が低迷の度合いを強める見通しとなる。警戒のレベルを少し上げておきたい。
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