Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

人手不足下での地域企業の事業戦略─日銀レポート

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2025年6月4日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 

 日銀は先般、本店および全国の支店・事務所から集めた情報をもとに、地域経済報告(「さくらレポート」)の別冊シリーズ「人手不足感が強まるもとでの地域企業の投資・事業戦略」を公表。興味深い内容なので、以下その概要を紹介する。

(レポートの概要)

 多くの地域企業では人手不足を経営上の優先課題と捉えているが、先行きも労働人口の減少が続き賃上げでは人材を十分に確保できないなか、投資・事業戦略面で様々な対応や工夫を進め労働生産性の向上に努めている。

 ヒアリングで判明した最近の4つの特徴は以下のとおり。

(1)AI等のデジタル技術活用の広がり

  • 人手に比べ割安となりつつあるデジタル技術を活用し、①労働投入量の節約(省人化と技能継承の双方に焦点を当てた投資など)、②一人当たりの収益力向上(データ分析による収益最大化など)を実現。

(2)規模拡大を通じた収益強化策からの脱却

  • 人的制約から事業拡大が難しくなるなか、①量的拡大よりも質的向上の重視(高級・高価格化)、②人手を要しない新たなビジネス展開(無人化店舗など)の方向に。

(3)人員配置や事業・サービスの抜本的見直し

  • 経営体制として、①収益性の高い事業への重点的な人員配置、②低利益率商品・サービスの廃止や低採算事業からの撤退、③他社への事業譲渡など、抜本的な対応もみられる。

(4)企業をまたぐ経営資源の共用化

  • 従来は進みにくかった、①同業他社との経営資源の共用化(共同配送や協力会社の相互活用など)、②地域横断的な取組み(観光地での泊食分離など)を推進。

 日銀は別途、直近の「展望レポート」でデータに基づく定量的な分析を行い、近年はデジタル技術の活用に積極的な企業ほど労働生産性の伸びが高く、中小企業の割合が高い非製造業でその傾向が強いといった結果も提示。2つのレポートを合わせ読むと、深刻かつ構造的な人手不足が契機となり、日本全体でデジタル技術も活用しながら生産性が高まり始めたことが窺われる。

 「さくらレポート」別冊は幅広い地域・業種の具体例も多く掲載している。会員企業の皆さんにも参考になる事例が少なくないと考えられるので、ご関心あればご一読いただきたい。

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