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寄稿記事

急がれる地方自治体のAI活用【日本経済新聞[エコノミスト360°視点]】

(日本経済新聞 2025年10月17日号朝刊に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 総務省の情報通信白書によると、日本では企業・個人とも生成AI(人工知能)の活用は広がっているが、米欧や中国に比べかなり遅れている。2024年度時点で、個人の利用は米欧・中国が6〜8割なのに対し、日本は3割弱、企業の活用も8〜9割に対し5割にとどまる。働き手不足やイノベーションの弱さが課題とされる日本こそAI活用のメリットは大きい。

 企業だけでなく地方自治体による活用も急務である。背景は①行政サービスの多様化・高度化によって職員の負担が増えている②若手の離職増にベテラン層の退職が加わり人手不足はさらに深刻化していく③大幅な人口減が予想される小規模自治体でも行政サービスの提供義務は続く――ことなどだ。

 総務省が全国自治体のAI活用調査を行っているが、ちばぎん総合研究所では、地域の直近の実情を把握する目的で、千葉県および県内の全54市町村を対象にアンケートを行った。併せて自治体のAI活用に対する住民アンケートを実施したことは他調査にない特徴である。ポイントを紹介したい。

 人口規模別に自治体の生成AI導入割合をみると、10万人以上が94%だったのに対し、5万人未満では37%。検討段階を含めると小規模自治体でも6割まで高まるが、深刻な人手不足から活用がより大事になることを踏まえると改善の余地は大きい。ただし、人材や知見の不足が大きな課題である。

 自治体の導入目的は、人手不足を反映し、議事録作成や議会での答弁書作成など業務効率化ニーズが強い。一方で、災害時の情報提供、住民の健康管理、地域交通の自動案内といったサービス高度化の意向は少なめだ。

 住民へのアンケートでは、自治体のAI導入に肯定的な回答が46%と、否定的の14%を大きく上回った。デジタルが苦手とされる高齢者も肯定割合は5割超と高い。住民の抵抗感という導入の障害は低そうだ。ただ、肯定の理由は、役所の人手不足対応よりも手続きの負担軽減・時間短縮、手数料低下という自身のメリット、災害時の情報提供など行政サービスの質向上への期待が強く、自治体のニーズとは多少のズレがある。

 自治体のAI活用に向けては、スモールスタートや首長のコミットメントなどが大事である。同時にアンケート結果も踏まえると、①住民ニーズを捉えサービス向上につなげるとともに、自治体の効率化ニーズに対する住民の十分な理解を得る②小規模自治体での活用に向けて成功事例の共有、近隣自治体との連携、国・県のサポートを強化する――なども重要だ。

 6月に閣議決定された「地方創生2.0」では、「広域リージョン連携」の枠組み創設が柱の一つ。総務省は25年中に生成AIの利用手引を公表し、具体的な活用事例も示す方針を掲げる。静岡県や横須賀市(神奈川県)をはじめ先進事例は増えており、千葉県でも知事のリーダーシップにより全庁的に推進している。これらも参考にしながら、全国の自治体でAI活用が広がることを期待したい。

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