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寄稿記事

成田空港機能強化の国家的意義【日本経済新聞[エコノミスト360°視点]】

(日本経済新聞 2024年11月29日号朝刊に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 成田空港では2028年度末に3本目の滑走路新設などが計画されている。これを含め、30年代を目指した大幅な機能強化が進もうとしている。1978年開港以来の「第二の開港」ともいわれる。

 有識者からなる検討会は今年7月に「新しい成田空港構想2.0」を取りまとめた。主な内容は、3つある旅客ターミナルのワンターミナル化、新貨物地区の整備などだ。航空機の発着回数は倍増し、取扱貨物量は1.5倍に拡大する。構想では国際ハブ空港としての機能だけでなく、周辺に産業が集積する自然と調和したエアポートシティの重要性も指摘した。

 これだけの取り組みにもかかわらず、東京ではあまり知られていない印象を受ける。羽田空港に目が向きがちなこともあってか、成田空港の機能強化はローカルなイベントとのイメージがあるためかもしれない。しかし、岸田文雄・前首相は今年8月に「国家プロジェクト」として、経済特区活用を含めた総合的な支援策を取りまとめるよう各省庁に指示した。

 国全体の観点で取り組む必要性は、いくつかの基本的背景で説明できる。第1は、成田空港が国際旅客・貨物とも日本一という国の基幹インフラであり、かつ能力が限界に近付きつつあることだ。今年1〜9月でみると、国際旅客数のシェアは3割強で、2割強の羽田や関西を上回る。国際貨物量も5割超と圧倒的に大きい。ともに拡大が続き、ピーク時間帯では需要が処理能力を上回る状態にある。

 第2に、首都圏のもう一つの羽田空港は物理的に拡張余地が小さいとみられ、貿易・インバウンド(訪日外国人)拡大のためには成田空港拡張が不可欠なことだ。先行きの貿易では港湾の利用増も見込まれるが、高付加価値品に適した航空貨物の一層の拡大が潮流といえる。インバウンドについては、政府が2030年に現状の2倍近くに拡大させる方針を示している。

 第3に、国際ハブ空港やエアポートシティの構想は経済発展につながる国家プロジェクトとして世界的に広がる動きで、出遅れた日本の取り組みは急務であることだ。エアポートシティは、国際都市間の経済・文化交流の結節点となる産業拠点として、国全体の成長を促進するエンジンになるとされる。韓国の仁川空港、オランダのスキポール空港などが代表だ。成田空港周辺では、物流施設に加え、医療ツーリズムも意識した健康医療関連や輸出中心の農園、航空宇宙関連などが産業集積の候補とされる。

 都心から一定程度離れた地域の産業集積は、「都心一極集中」を和らげる効果も持ちうる。成田空港は圏央道に隣接し、新貨物地区から直接アクセス可能になる方向だ。首都圏全体として圏央道周辺の産業集積にもつながれば、古くにエベネザー・ハワードが提唱した「田園都市構想」に類似した状況が実現する。

 国家プロジェクトとしての意義が幅広く理解され、円滑に実現することが望まれる。機能強化の効果を最大化するには、鉄道を含め都心や羽田空港と結ぶ交通アクセスの抜本的な改善も不可欠だ。

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