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脱炭素を地域活性化のエンジンに【日本経済新聞[エコノミスト360°視点]】

(日本経済新聞 2023年10月27日号朝刊に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 2050年のカーボンニュートラル(CN)に向けて地域でも様々な取り組みが始まっている。千葉県は京葉臨海コンビナートを有し二酸化炭素(CO2)排出量が最も多い地域の一つだ。こうした課題の重さからか従来は脱炭素への意欲が高いとはいえなかったが、このところ取り組みが急速に進んでいる。

 それには千葉県が脱炭素へと明確に舵(かじ)を切ったことの影響も大きい。県は昨年初に「SDGsパートナー登録制度」を開始、今春には「CN推進方針」を策定し分野別に方向性を明示した。パートナー登録団体は約1年半で2千にのぼり、例えば企業は脱炭素の目標を設定し、公的補助金も活用しながら設備投資などを積極化。自治体では、脱炭素先行地域に指定された千葉市以外でも、独自の取り組みがみられる。

 脱炭素の広がりには、企業ではビジネスチャンス、自治体では地域活性化といった課題解決を新たな発展のエンジンにするとの意識が作用しており、地域金融機関も取り組みを後押しする。

 千葉県の代表例は住民の理解を土台に電力の地産地消も意識した銚子市沖の洋上風力発電事業、県全体に影響しうる成田空港の脱炭素化、市原・千葉市の臨海部企業が連携したCNコンビナート実現への動きなどだ。停電回避に加え大幅節電も狙った「柏の葉スマートシティ」(柏市)、地域の天然ガスや太陽光発電を活用しエネルギーの地産地消に成功した「むつざわスマートウェルネスタウン」(睦沢町)、清掃工場の廃棄物発電を利用し本庁舎のCNに成功した船橋市も目を引く。

 成田空港では空港施設だけでなく航空会社など関連事業者を含めた50年のCO2削減目標を掲げるもので日本の空港として初めての試みだ。その中で持続可能な航空燃料(SAF)の活用が想定されているが、臨海部の製油所で量産化できれば、県内産業の発展につながる。また千葉県は周辺9市町の脱炭素地域づくりを進め、魅力ある広域CNエアポートの形成も狙う。

 柏の葉の取り組みは産学官民によるエリアマネジメントを通じて、住民の健康データを活用し健康サービスの提供や医療研究にいかすという取り組みにも進化した。CNの面では、路面から電気自動車への走行中給電の公道実証実験といった、日本初の先進的な試みも始まった。

 千葉県の例に基づく脱炭素のキーワードは第一に「産学官民の連携」。官による方針の明確化、産学の技術面での役割に加え、住民の理解・協力を得ることも重要な要素となる。第二に「地域資源の活用」。例えば、災害時も意識した電力の地産地消を進めようとしても、それを可能とする低炭素のエネルギー源がなければ、コスト高に終わるだけだ。エネルギー源に限らず地域の特性をどのようにいかすかが鍵となる。

 とはいえCNは緒に就いた段階。京葉臨海コンビナートのように日本産業を支える地域にはイノベーションを支援する財政資金も不可欠だ。日本全体として各地の事例も参考にしつつ取り組みがさらに広がることを期待したい。

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