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寄稿記事

スタートアップで地方の課題解決を【日本経済新聞[エコノミスト360°視点]】

(日本経済新聞 2022年12月9日号朝刊に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 スタートアップの育成は、岸田政権が掲げる「新しい資本主義」に向けた重点投資分野の一つである。2022年度の第2次補正予算には1兆円規模の起業支援策が盛り込まれ、スタートアップ育成5カ年計画も策定された。

 最近では日本でも起業意欲が高まっている。経済産業省によれば大学発ベンチャーの数は21年度に3306社と5年前の8割増となり、コロナ禍でも過去最高の伸びを記録している。

 若者を中心に価値観が多様化する中、政府支援も後押しとなり、グローバルに活躍する起業家が日本経済のけん引役となることが理想形だ。

 スタートアップは東京中心の動きとなりがちだが、地方でもポテンシャルはある。地方発のスタートアップはグローバル展開まで至らないとしても、高齢化が進む中での医療・介護の充足、子育て支援への対応、農林水産業の後継者養成など、地域が抱える多くの課題解決に貢献することが期待できるためだ。

 ある地方の取り組みが別の地方に展開できれば、日本全体の課題解決にもつながりうる。社会課題の解決を目指す新興企業は「インパクトスタートアップ」と呼ばれ、世界的な潮流でもある。

 千葉でもスタートアップの芽は出始めている。情報プラットフォームの構築などを通じて地域の課題解決に取り組むフューチャーリンクネットワーク(FLN)は21年に上場を果たした。

 またICT(情報通信技術)を活用して救急医療を支援するSmart119(千葉市)も有望だ。千葉大病院の救急医療を担当する医師が立ち上げた同社のシステムは県内のみならず、広島県東広島市などでも導入される方向だ。さらに介護経験と千葉工業大学で学んだロボット工学を元に学生らが起業した、介護関連機器を開発するaba(船橋市)も続く。

 地方の動きで注目されるのは、先行した起業家が後続の起業家に学びの場を提供する「イノベーションベース」という民間主導の支援の仕組みだ。20年に徳島県において、東京で成功を収めた地元出身の起業家が主導し第1号が発足し、現在では全国20程度の地域に広がる。

 千葉県でも21年10月に首都圏初の発足となった。前述のFLNやabaの代表らが発起人だ。月例会では千葉にゆかりのある上場企業の経営者などを招き、起業の経験や悩みを共有したりする。新たな起業家の相談に乗るメンター制度も設けている。

 地方のスタートアップも基本は官主導ではなく民主導であるべきだ。同時に起業を取り巻く不確実性は高く、地域の課題には公的部門が関与する分野が多いことへの対応も必要となる。このため自治体や大学、大企業などと効果的に連携するエコシステムの構築が鍵となる。地域金融機関も資金面だけでなく、ニーズとシーズ(事業や技術の種)のマッチングといった情報面で担う役割は大きい。

 地域一丸となってスタートアップを巡る諸課題を解決しつつ、育った企業が地域の課題解決に貢献できるように発展することを期待したい。

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