新聞等への
寄稿記事
日銀の金融政策の行方【日本経済新聞[エコノミスト360°視点]】
(日本経済新聞 2022年4月1日号朝刊に掲載)
前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]
米連邦準備理事会は、3月にゼロ金利解除を決定し、2%半ばの中立金利を超える水準に向けた利上げ予想を示した。英イングランド銀行も既に利上げに転じた。市場では、欧州中央銀行による本年中の利上げ開始も織り込む。このため市場の一部では、日本銀行の政策修正の可能性も意識しているようだ。
しかし、米欧と日本では人々の物価観が大きく異なる。経済も、米国は新型コロナウイルス禍前のトレンドにほぼ戻ったが、日本ではスラックが大きい。インフレ率は、米国の7%台に対し、日本では、資源高から当面2%程度まで高まるとしても持続可能でなく、エネルギーなどを除くコアインフレは1%の定着にも時間がかかりそうだ。
ウクライナ情勢などによる資源高は、大半を輸入に頼る日本にとって、海外への大規模な所得流出を通じ景気下押しに働く。この点でも、米国は世界一の原油・天然ガスの産出国であるため下押し圧力は小さく、彼我の差は大きい。
最近の0.25%での「指し値オペ」(固定金利での無制限国債買い入れ)は、現在の調節方針を実現するための技術的対応で政策的意図はないとしても、日銀の政策修正はしばらくないとみる。
日銀は物価が多少上昇する局面において長期金利を抑制することが、緩和効果を高める上で大事と考えているはずだ。政策修正には、景気とコアインフレ・賃金の明確な上昇が必要で、円安進行そのものも理由にならない。
不確実性は大きいが、やや長い目でみた日銀の金融政策についても、頭の体操をしておこう。
世界的な物価環境は、低インフレが続いたコロナ禍前までと比べ様相が異なりつつある。例えば、脱炭素や安全保障の面から財政が拡張的に運営され得るほか、サプライチェーン混乱の経験によって効率を徹底追求したグローバル化も修正され得る。だとすれば日本でも、輸出入価格の広範かつ持続的な上昇や内外金利差による円安傾向、それらに伴う物価観の変化などにより、日銀目標の2%は難しいとしても、1%程度のインフレが定着する可能性はある。
そうなると2%実現の前であっても、短期金利のマイナスと10年金利のゼロという極端な低金利政策の妥当性について、金融経済の安定確保の観点から議論が高まり得る。仮に政策が修正される場合の留意点として、以下を予想しておきたい。
第一に、日銀はより長期の目標と位置付けつつも、2%の看板は下ろさない。第二に、インフレ率が低いため中立的な名目金利は1%程度、政策金利はそれ未満に抑制され、米国のような連続的利上げにならない。第三に、市場で利上げ予想が高まる場合、10年金利の許容レンジが狭いままであれば、日銀が金利抑制のために国債を大量購入することとなり、結果として民間の金利リスクを吸収する。
要は、緩和的な金融環境が劇的には変化しそうにないとみる。ただし、厳格な長期金利操作から生じる利上げ局面での日銀の資産拡大が、為替市場などにどう影響するかには一定の注意が必要だ。
●当ウェブサイトに記載されているあらゆる内容の著作権は、株式会社ちばぎん総合研究所及び情報提供者に帰属し、いかなる目的であれ無断での複製、転載、転送、改編、修正、追加など一切の行為を禁じます。