わたしの意見-
水野 創

サミット後の経済対策で家計の不安解消は無理

水野 創[ちばぎん総合研究所取締役会長]

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2016年5月27日号に掲載)

水野 創[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 前号でも指摘した通り、日本の景気回復に勢いがつかない要因の一つは、家計の消費態度が慎重さを増していることであり、原因は先行き不安の高まりだ。

 前号では消費性向の低下で確認したが、今回は労働分配率の動きを見たい。

 マクロベースの労働分配率(雇用者報酬/GNI<国民総所得>)は最近20年間、景気変動による振れを伴いながらも低下トレンドにある。近年はリーマンショック後の不況時に上昇した後、アベノミクス以降は再び低下しリーマンショック前の水準に近づいている(表)。 

          

 景気変動による労働分配率の振れは、雇用者所得より企業収益の変動が大きいことが一因だが、家計部門にとって厳しいのは、最近のように有効求人倍率の上昇、完全失業率の低下といったタイトな労働需給の下でも、労働分配率が上昇しないことである。

 人手不足とはいっても職種別に需給の差が大きく、一部のタイトな職種を除けば、相対的に賃金の安いパートの採用が可能で、指標ほど現場の逼迫感は強くないのだろう。

 また、このところ目につく、人工知能や各種ロボットの発展が、今後、自動運転、受付・フロント、コールセンター、医療・介護など幅広い分野で飛躍的に加速する可能性が強いことを考えると、この傾向は今後一層強まる可能性が高い。

 電子知能やロボットに負けない特技を持つ自信のない多くの普通の雇用者は、そうした動向を肌で感じて将来に対し身構えているのではないか。

 26、27日の伊勢志摩サミットでは世界経済の持続的成長が主要テーマの一つだが、先行した財務大臣・中央銀行総裁会議(21、22日)を含め筋書きに沿った展開で、市場も反応していない。

 選挙を控えた日本では、今後、消費税率10%への引き上げの再延期を含む経済対策が打たれることになるのだろうが、それだけでは雇用についての安心感は生まれない。

 消費、特に価格競争を続けている業界にとっては厳しい環境が続く。


●当ウェブサイトに記載されているあらゆる内容の著作権は、株式会社ちばぎん総合研究所及び情報提供者に帰属し、いかなる目的であれ無断での複製、転載、転送、改編、修正、追加など一切の行為を禁じます。