Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

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日銀・植田総裁が12月利上げをほぼ予告

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2025年12月2日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 10/31日の点描で12~1月が次回利上げの目安と書いたが、昨日の日銀・植田総裁の名古屋講演は12月利上げ(0.5→0.75%)をほぼ予告するものに聞こえた。

 植田総裁は、「米国経済の下振れリスクや関税政策を巡る不確実性が低下したことで、経済・物価の中心的な見通しが実現していく確度は高まってきている」と指摘。改めて「来年の春季労使交渉に向けた初動のモメンタムを確認していくことが重要」と述べ、最低賃金の大幅上昇、組合側の連合の要求方針、経営者側の経団連の姿勢表明など、幾つかの前向きの動きを列挙した。

 その上で、「12/18~19 日の会合に向け、本支店を通じて企業の賃上げスタンスに関し精力的に情報収集しており、この点を含め様々なデータや情報をもとに点検・議論し、利上げの是非について適切に判断したい」と述べた。

 これだけ総裁が具体的に次回会合の論点を述べることは珍しい。今年1月の利上げ(0.25→0.5%)の直前に、氷見野副総裁が「次回の会合で、利上げを行うかどうか政策委員の間で議論し判断したい」と述べたことに近く、12月利上げの可能性は相当高いとみておいてよいだろう。ちなみに市場の織込みは、総裁講演前の5割強から足もとでは8割程度まで上昇している。

 問題はその次の利上げである。総裁は講演で、インフレ率に比べた金利水準の低さを指摘したうえで、「利上げといっても、景気にブレーキをかけるものではなく、安定した経済・物価の実現に向けてアクセルを緩めていくプロセス」と発言。その後の記者会見では、「利上げをしてもまだ緩和的な状況」との認識を示しており、将来の再利上げ(1%以上)を示唆した。

 本年初までは約半年に1回利上げし、今年夏頃にも再利上げが予想されていたが、トランプ関税により半年程度の後ずれとなったイメージ。一方で、トランプ関税の経済・物価への影響はさほど大きくなく、利上げがやや後手に回っている感がある。日銀からは、銀行貸出の伸び率上昇や過度な円安の物価への影響を含め、低金利の歪みを懸念する声も聞かれる。

 総裁も記者会見で、「利上げが過度に遅れると、米欧などで経験したように非常に高いインフレ率になって、政策金利が4〜5%になる可能性」を指摘。また、「スムーズな物価安定の姿に着地できれば、政府の政策による成長の効果も強く息の長いものになる」と、「強い経済と物価安定の両立に向けて適切な金融政策運営が必要」とする高市総理の主張との整合性にも言及した。

 将来の利上げはなお不透明だが、現時点では、来年度初の値上げや賃上げなどが判明する時期である今回から約半年後の来年夏頃が、次回の利上げになるとのイメージを持っておきたい。その点も含め、日銀の適切な舵取りに期待したい。

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