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寄稿記事

地方はデジタル化で目指す姿を【日本経済新聞[エコノミスト360°視点]】

(日本経済新聞 2022年6月17日号朝刊に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 政府は新しい資本主義の実行計画を発表し、「デジタル田園都市国家構想」を重要な柱の一つとした。そこでは地方の社会課題を障害物ではなく、新たな成長のエネルギー源と捉えている。

 筆者の勤務する千葉県は都市と地方の双方を有する日本の縮図とされる。県の東・南部は東京に近いとはいえ、少子高齢化や過疎化に伴う多くの課題を抱えている。

 しかし農林水産業の担い手不足や高齢者の移動困難、相次ぐ自然災害や医療資源不足といった問題の多くは、ドローンや自動運転を含めた幅広いデジタル技術の活用によって対応することが可能と思われる。中小企業と大企業の関係と同様に、地方は都市に比べ遅れている分、デジタル技術の活用余地も大きい。

 またデジタル化は、企業や個人を地方に惹きつける際の大事な要素にもなる。千葉県では「空き公共施設」を活用した企業誘致を行っている。そこで企業が進出の際に気にする要素の一つはデジタルインフラの充実度合いだ。

 個人についても、大規模な移住促進は容易ではない。しかしリモートワークの受け入れや、二地域居住を含めた関係人口の増加のために、デジタルインフラの充実が不可欠と言える。

 地方のデジタル化を進めるに際しては、幾つかの留意点がある。

 第一に高齢化などにより本来はデジタル化の恩恵が大きい地域ほど、自治体も住民もそのニーズを感じていないことへの対応だ。千葉県でも聞くこうしたギャップを埋めるためには、自治体も住民も意識変革やリテラシーの向上が必要となる。機器の操作などを支援する「デジタル推進委員」を2万人以上配置する政府の構想が機能するかが注目されているが、地方銀行やシンクタンクなどの役割も大事だろう。

 第二に同じような課題を抱える自治体が、システム構築やデータ分析、知見の共有といった点で連携を深めることが重要だ。デジタル化が進めば、距離によらず地域間の効果的な連携が可能となる。

 第三に、デジタル化はあくまでも手段であり、大事なのは地域が目指す姿だ。2015年以降の地方創生ブームの中で、千葉県における幾つかの成功は、その地域の強みを最大限に生かした取り組みによるものである。例えば一宮町は「サーフォノミクス」を掲げ、サーフィンを核とした地域活性化を目指すことにより九十九里地域で唯一人口が増加している。また旭市では、旭中央病院を核に民間を巻き込みながら、生涯活躍のまち「みらいあさひ」事業が進められている。

 デジタルインフラが一様に整備されればされるほど、地域の真の実力が試される。人口増減にかかわらず地域が活性化するには、まずは自治体が目指す姿を明確にすることとだ。そしてデータ活用を含め住民、企業などと密接に連携することが重要となる。

 最後に、デジタル化という点では、地方と都市の差を埋めることだけでなく、都市を含めて遅れている日本全体の進歩が不可欠なことも付言しておきたい。

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