新聞等への
寄稿記事

金利ある世界の財政、将来像議論を【日本経済新聞[エコノミスト360°視点]】

(日本経済新聞 2024年6月28日号朝刊に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 金融政策の正常化を反映して長期金利が一時、10数年ぶりに1%を超えた。

2%インフレが定着すれば、理論的には短期金利が中立金利に収斂(しゅうれん)するが、植田和男日銀総裁は2026年度ごろに実現する可能性に言及した。長期金利は期間に応じた上乗せ金利「タームプレミアム」などを反映して、それを上回りやすい。日銀は中立金利を1〜2.5%程度と推計している。幅を持ってみる必要はあるが、長期金利が数年先に2%程度まで上昇する可能性は相応にありそうだ。

 金利が明確に上昇した場合、家計や企業だけでなく、政府部門への影響にも十分な注意が必要だ。長引く金融緩和のもと、政府債務は大幅に増加し23年度の国債残高は1076兆円と20年前の2倍以上となったが、国の利払い費は低位で安定していた。05年度に7.0兆円まで減少したあと横ばい圏内で推移し、23年度も7.6兆円にとどまった。しかし、仮に長期金利が2%になれば、計算上は20兆円程度にまで膨らむ。

 政府は今年の経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)で、利払い費を除く基礎的収支(PB)について、25年度の黒字化を目指す方針を3年ぶりに明記し、利払い費増加の懸念も示した。

 金利ある世界での財政の持続可能性に関連して何点か指摘したい。まず、金利が名目成長を明確に下回れば、PBの小幅赤字継続でも債務比率は無限に上昇しない計算となるが、財政優先の金融政策は結局、過度な円安などを通じて国民経済の負担となりうる。そのリスク指摘は、円高・低インフレ時代には「オオカミ少年」と皮肉られただろうが、今や無視できない。

 次に、金利上昇下での蓋然性の高い財政の姿を示すことだ。利払い費の増加には時間がかかり、名目成長回復が税収増につながる面もある。それらも踏まえた姿が、健全な財政議論の土台となる。

 その点で、7月に公表される内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」が注目される。今年1月の試算は、ベースラインケースが低インフレ継続とみていることもあってか、長期金利は32年度にようやく1%を若干上回るとの前提だった。2%インフレや3%名目成長の早期定着を見込む成長実現ケースでも、長期金利は27年度まで1%前後にとどまり、2%以上となるのは30年度。10年前の試算では、試算から2年後には長期金利が2%以上まで上昇するとしており、超低金利の長期化で試算の前提が楽観方向に大きく変わったようだ。

 内閣府は金利上振れの試算も示しているが、その幅は0.5%とリスクシナリオとしては小さい感がある。ベースラインケースを含め、説得的な前提と試算結果が示されることを期待したい。

 財政健全化は何事にも優先されるものではないが、日本の財政事情を踏まえると、金利ある世界ではリスクマネジメントの意識を高める必要がある。社会保障制度のあり方を含め、日本経済の健全な発展に資するような財政運営について、バランスよく議論することが大事だ。

●当ウェブサイトに記載されているあらゆる内容の著作権は、株式会社ちばぎん総合研究所及び情報提供者に帰属し、いかなる目的であれ無断での複製、転載、転送、改編、修正、追加など一切の行為を禁じます。

Get Adobe Reader

PDFのついている記事はPDF形式です。
PDFファイルをご覧になるためには、 Adobe Reader が必要となります。
左記のアイコンをクリックすると入手(無料)できます。