Business Letter
「点描」
社長 前田栄治
衝撃のトランプ相互関税
(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2025年4月7日号に掲載)
前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]
先週、米トランプ大統領が相互関税を発表。貿易障壁を有すると判断される国に対して、高関税を課すというもの。そうでない国に対しても一律10%の関税をかける保護主義的な政策だ。
国毎の税率をみると(表)、日本は24%と24番目に高い。中国は34%で既に課されている20%と併せて54%と極めて高い一方、EUは20%。別途25%が課された自動車などについては、相互関税の対象外の模様だ。

税率は当該国との貿易赤字/輸入額を基に計算した乱暴なもの。事前には精々10%、日本などは免除される可能性との期待もあっただけに、今回の税率は衝撃だ。トランプが関税により「好景気になる」と主張する米国経済は、インフレ・景気後退に陥るとみるのが自然で、現に株価は大幅に下落している。
日本経済への影響は小さくない。24年のデータでみると、日本から米国への輸出額は約20兆円と、名目GDPの約600兆円に対し約3%の規模。相互関税により、例えば米国向け輸出が2割落ち込めば、それだけでGDPには約-0.6%の下押し圧力。他産業への波及効果や世界経済全体が落ち込むリスクも踏まえると、マイナス効果はそれを上回る可能性もある。
日本経済への影響の大きさは、高率関税がどの程度長引くか、他国が報復措置を採るかに左右される。トランプは高率関税により、日本における自動車の安全規制の緩和や農業の保護政策の修正などを迫ってくる可能性があるが、納得が得られる対策の構築にどの程度の時間を要するかは不明。他国が報復措置を採れば、貿易の大幅縮小を通じて世界経済が失速するリスクもある。
日本経済全体が大きな影響を受ければ、自動車など主要輸出産業に乏しい千葉経済にも明確にマイナスの影響が及ぶ。
今回の相互関税は、不公正な貿易国の譲歩を引き出す交渉材料の一つとみられること、米国経済がスタグフレーションに陥ればトランプの支持率も落ち中間選挙に影響することなどから、いずれ現実的な対応が採られるものと期待したい。
ただ、①全ての国に対して課していること、②関税公表日を他国からの搾取に対する「解放の日」と発言していること、③「短期的には痛みでも長期的にはプラス」と繰り返していることなどからみて、トランプが高率関税の継続は米国経済にとっての処方箋と信じている可能性も否定できない。戦後構築されてきた米国中心の自由貿易体制が大きく修正されるリスクさえ気になる。世界経済の急変の可能性に十分注意しておきたい。
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