Business Letter
「点描」
社長 前田栄治
トランプ関税の交渉の合意
(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2025年7月24日号に掲載)
前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]
7月23日に日米関税交渉の合意が公表された。相互関税が15%、自動車関税も15%(元々の2.5%+12.5%)での合意だ。前者は8月1日から25%の課税が予定され、後者はすでに27.5%(2.5%+25%)が課税されていたため、相応の引き下げとなった。トランプ政権は現実的な対応を採ったものと評価できる。
これを受けて、日本の株価は大幅に上昇。要因は3つ。第1に、関税交渉が懸念されていたほど長引かず、先行きの不確実性が低下したこと。第2に、関税率についても、25%以上といった最悪の事態が回避されたこと。第3に、引き下げが難しいとの見方が多かった自動車関税が半減したこと。これは、自動車関連の株価上昇が目立った点に現れている。
ただし、手放しで喜べるものでもない。関税率は引き下げられたとはいえ、15%は米国向けとしては第2次世界大戦後で最高水準。他国の米国向け関税も殆どが15%以上で合意の方向であり、輸入国である米国の経済にも影響が及ぶ。
これまでは関税が決まっていなかったため、米国での輸入品価格は目立って上がっていない。駆け込み的な輸入品の購入によって、米国経済が予想以上にしっかりしているように見えてきた面もある。関税が決まったことで、先行き、米国の輸入品価格は次第に上昇していくとみられ、米国経済や世界経済への影響はジワジワでてくる可能性がある。
また、やや長い目でみて、戦後構築されてきた米国中心の自由貿易体制が修正されることの影響にも注意が必要だろう。中国だけでなく米国との関係も不確実性が高いことが明らかとなったことを受けて、チャイナ・プラスワンだけではなく、アメリカ・プラスワンの発想も必要となる。そうした中で、日本を含めた各国間の連携の形は変化し、グローバルなサプライチェーンも再構築されるとみられ、それへの対応も必要になってくる。
今回の合意により最悪の事態は回避され、日本経済が深刻な景気後退に至る可能性は低下した。また、千葉県経済は、自動車を中心とした輸出関連が少ない。これらの点を踏まえると、千葉県経済にとってトランプ関税は大きなマイナスの影響とはならないとみてよいだろう。
ただし、今後、米国経済や世界経済がある程度減速し、その影響が千葉県経済にも多少なりとも及ぶ可能性もある。長期的な世界経済の構造変化とその企業経営への影響を含め、一応注意しておきたい。
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