Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

自民党高市新総裁の経済政策

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2025年10月6日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 先週末、自民党総裁選で高市新総裁が誕生。今月中旬にも開かれる臨時国会で初の女性首相に選ばれる公算が高い。経済政策をはじめとした政権運営の中身は、連立の枠組みに影響されることもあり、臨時国会での所信表明演説を待つ必要があるが、一応の方向性を整理しておきたい。

 総裁就任後の記者会見での経済政策に関する発言は以下のとおり。

  • ガソリン暫定税率の廃止などにより物価高対策を急ぐ。消費税の引下げの優先順位は低い。
  • 給付付き税額控除の制度設計は数年かかるが、しっかり議論していく。
  • 国土強靱化やエネルギー、農業、医療に官民で投資し、成長を促進。
  • 赤字の中小企業や農林水産業を支援。自治体に対する交付金の上積みも一案。
  • 財政健全化の必要性はないとは言ったことは一度もない。(野放図でなく)賢い投資が本心。
  • 財政政策にしても金融政策にしても責任は政府。
  • 経済政策は政府と日銀が足並みを揃えしっかり協力をしなければいけない。

 これらの発言からは、①財政政策は積極化するが一定の節度も意識、②金融政策の正常化は慎重に進めることを期待、といった考え方が窺われる。過去の発言からは、超積極財政とともに利上げ完全否定といったリフレ派の色彩が強いように思われたので、今回の発言は比較的穏健に聞こえた。総裁への選出がリフレ派とは距離を置く麻生派の支持で実現したとされることや、今後の野党との連携実現が重要であることなどを踏まえ、現実路線を意識したものと推察される。

 本日の金融市場では、財政の積極化や利上げへの慎重姿勢を反映し、株価急騰や1ドル150円程度への円安に繋がっている。金利は短中期(5年以下)が下がる一方、将来のインフレや財政プレミアムの高まりが意識され超長期(20~30年)の国債金利が上昇。円安や国債金利上昇は今のところ限られるが、今後の新総理の発言や政策次第で大きく進む可能性は意識しておきたい。

 また、今回の高市総裁誕生はサプライズとされており、与野党連携や政権運営に準備不足ではないかとの指摘もある。そうであれば、当面は政治情勢や高市氏の発言が右往左往することで、金融市場の大きな振れに繋がるリスクにも注意が必要だ。

 なお、金融政策については、市場では半分以上の確率で10月利上げを見込んでいたが、植田総裁はトランプ関税の影響や来春闘の見通しに関し慎重に見極めたいと発言していた。加えて利上げに慎重な政権となる可能性が高いことを踏まえると、さらに円安が大きく進むといったことがない限り、次の利上げ時期は総裁選前の市場の見方より後ずれし、12月か1月が中心とみておきたい。

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