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寄稿記事
積極財政、日銀の貢献は物価安定【日本経済新聞[エコノミスト360°視点]】
(日本経済新聞 2026年3月27日号朝刊に掲載)
前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]
高市早苗政権は「日本列島を、強く豊かに」との使命を掲げ、国内投資促進のために「責任ある積極財政」を進めるとする。重点投資17分野を示し、このほど主要な製品・技術などの官民投資ロードマップ素案も公表した。
リスクが大きく民間だけでは対応しにくい分野において、政府が優先的に支出し、民間投資の呼び水となって中長期の供給力を強化することに主眼を置いている。「モダン・サプライサイド経済学」の考えに近いものといえる。
こうした政策は、公的関与が大きい中国経済が台頭し、技術が激しく変化するもとで世界的に広がりをみせている。投資不足が長年の大きな課題となってきた日本でも、一定の妥当性があるように思われる。同時に政府としては、投資分野の適切な選定、財政の持続性といった課題を十分に意識する必要があることはいうまでもない。
日本銀行の役割はどうだろうか。あえて低金利を維持することで積極財政を支えるべきだとの考え方もあろう。確かにデフレ期にはそうしたポリシーミックスが必要かもしれない。しかし、現在のように円安・資源高・インフレ傾向の局面では、積極財政のために低金利を維持すべきだとの考えは、インフレの高まりなどを通じて、結果的に政府の政策効果を低下させるリスクが大きいように思える。
具体的に考えてみよう。第一に、実質でみた投資が縮小するリスクだ。投資は将来の供給力につながるとしても、当面は需要増をもたらすという二面性を有する。投資関連のモノやサービスは価格が上昇傾向にある。特に建設プロジェクトでは、人手不足などから金額が当初計画に比べ2倍程度に膨らむ例もでている。ポリシーミックスで価格上昇がさらに進むと、民間投資の採算が低下し、事業縮小につながるという「クラウディングアウト」の恐れがある。また、政府投資そのものも価格上昇が激しければ、実質的に縮小しうる。
第二に、インフレが高まった場合に長期金利が大きく上昇し、将来的な財政負担増につながるリスクだ。物価が安定した方が、長い目でみれば、国債金利ひいては政府の利払い負担が抑制される。
日銀法第2条は、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」ことを金融政策の理念と定める。これに基づいて、日銀が財政政策の影響も含めた経済全体をみながら、2%インフレが安定的に実現するよう金融政策を運営することが、結果的には、強い経済を目指す現政権の財政運営にも貢献することになる。
そのことは、金融政策が「経済政策の一環をなすものであることを踏まえ、それが政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう」という、第4条の趣旨に沿ったものにもなる。
さらに、現在の世界では米トランプ政権の対外政策などによって、多様な不確実性が広がっている。そうした状況の下では、せめて物価面の不確実性を低下させた方が、企業・家計・政府いずれの経済活動にとってもプラスに働くことも付言しておきたい。
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