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ウォーシュFRBはどこに向かうのか【日本経済新聞[エコノミスト360°視点]】

(日本経済新聞 2026年6月12日号朝刊に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 米連邦準備理事会(FRB)の新議長に元理事のケビン・ウォーシュ氏が就任した。初舞台となる米連邦公開市場委員会(FOMC)を控え、その金融政策のかじ取りに注目が集まっている。

 短期的には、低金利を望むトランプ大統領に選ばれた議長だけに、政策金利の行方が焦点となろう。ただ、議会の指名公聴会では物価安定が重要であり、大統領などの見解によってFRBの独立性は脅かされないと発言した。要は物価次第ということだ。

 筆者には、中長期的に金融政策の枠組みが変化するかどうかが、より重要な論点に思える。公聴会でウォーシュ氏は、著名な経済学者ミルトン・フリードマンの「現状維持の専制」という言葉を使い、古い仕事のやり方やモデルの活用などにとらわれるべきではないとして、枠組み修正の必要性を主張した。変化の可能性があるのは、主にFRBのコミュニケーションとバランスシート政策だ。

 過去数十年の主要国では日本を含め、中銀の独立性の見返りに透明性を求めるという潮流が強まった。FRBでは、四半期ごとに経済・物価や政策金利の委員見通しを示す通称「ドットチャート」の公表だ。また、多くの中銀に共通する、先行きの政策指針(フォワードガイダンス)の活用も挙げられる。

 これらは市場の予想に働きかけることで政策効果を高めるとされる。一方でウォーシュ氏は、不確実性が高い昨今において過去の発言に縛られ、政策の誤りにつながるリスクを指摘する。2020年にFRBが採用し、後に撤回した「埋め合わせ戦略」(過去の低インフレを埋め合わせるため高インフレを許容する指針)も念頭にありそうだ。

 バランスシート拡大については、「金融資産を持つ層を不均衡に利する」と不公平さを強調し、財政のタガの緩みなどを通じて近年のインフレにつながったとの懸念も示している。「FRBは本分を逸脱すべきではなく、独立性は財政政策や社会政策に踏み込む時に最も危険にさらされる」という。

 社会政策に触れたのは、FRBが20年に最大雇用の概念を、低所得者層を含む包摂的な改善に広げたことや、多くの中銀が気候変動対策を支援する政策に踏み込んだことを意識したものと思われる。

 金融政策の枠組みには様々な考え方があり、修正には慎重な検討を要する。ただ、フォワードガイダンスや大規模な資産買い入れなどは、リーマン・ショックや低インフレという時代の要請の中で、中銀が物価安定に向け「できることは何でもやる」との姿勢を示したことが契機だった。

 新型コロナ危機やウクライナ・中東情勢を経て、世界的にインフレ環境は大きく変化している。1990年代以降のインフレ低下要因だったグローバル化は巻き戻され、資源の希少性が高まるとともに防衛費を中心に財政支出は拡大しており、インフレが高まりやすい状況にある。

 新常態ともいえる多様化かつ肥大化した各国の金融政策の枠組みが、ウォーシュ議長の誕生を機にどう修正されていくか注目したい。

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