わたしの意見-
水野 創

所得は増えても、伸びない消費

水野 創[ちばぎん総合研究所取締役会長]

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2016年11月17日号に掲載)

水野 創[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 最近お目にかかる経営者の皆さんから「消費は厳しさを増している」との指摘が多い。

 14日に発表された7~9月のGDP統計でも、個人消費、設備投資は、物価の動きを考慮した実質ベースでは緩やかな回復を維持しているが、企業の売上・収益や家計の所得の実感に近い名目ベースでは減少している(図表1)。

 雇用者報酬が増加しているが消費は増えない、消費性向が最近では例のない水準まで低下してしまっている(図表2)。

 また、消費の内訳を見ると、サービスは増加しているが、財への支出が減少している。耐久財は消費税引き上げ時の駆け込み需要の影響も見られたが、ここに来て一段と低下しているのは非耐久財だ。財別の物価上昇率を見てもサービスに比べ財の低下が大きい。

 旅行等「物」でなく「物語」に対する積極的な支出、高齢化による医療、介護関連の必須の支出の増加、一方で日用品はセール活用で倹約姿勢を強めるなど、家計は、メリハリは付けているが全体としての倹約姿勢を崩していない。それに対して売り手側も値下げで対応しており、これでは物価先高観は期待できない。

 現在、安倍首相、黒田日銀総裁は賃上げを訴えているが、賃金を上げさせればすむわけではない。

 「物」の売り手が「サービス」の売り手のようにお客様に買ってもらうためにこれまで以上の工夫がいるのはもとよりだが、将来に向けての雇用確保、所得増加、社会保障など家計が安心して消費に向かえる環境、そして経営者が政府から言われるのではなく自ら賃上げをしようと思うような環境を整える必要があるだろう。

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