わたしの意見-
水野 創

「賃上げ3%は実現するか」と問われて  

水野 創[ちばぎん総合研究所取締役会長]

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2018年1月18日号に掲載)

水野 創[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 先日、ある会合で、突然、「賃上げ3%が実現するか」と質問され、終了後も立ち話でこの話題が続いた。

 まず、3%賃上げの対象は一般に「定昇+ベア」のようである。この定義であれば、大企業の一部はその気になれば実現可能だろう。

 しかし、そもそも3%賃上げが何を目的としているか、3%賃上げでその目的を達成できるのかが問題だと思う。通常言われている目的は次の2点だ。

 ①2019年10月の消費税率引き上げ時に、2014年のような消費の腰折れを防ぐためには、賃金を引き上げておく必要がある。

 ②高水準な企業業績にもかかわらず賃金が上がらず、労働分配率も上がらない。企業から家計にもっとお金が回らないと経済の好循環につながらない。名目GDP、2020年600兆円の達成も難しくなる。

 そして3%賃上げでこれらの目的を達成できるかといえば、以下の通り極めて難しい。

 ①「定昇+ベア」が増えても、時間外手当、賞与を含む賃金全体が増えるとは限らない。「ベア」を重視する組合戦略の下で、この冬の賞与は業績好調にもかかわらず前年並みの水準にとどまっている。「働き方改革」により、時間外手当が減少するのではないかと嘆く声も聞かれる。

 ②最低賃金のここ数年の引き上げでパートの時給が上がり、その業績圧迫が正社員の賞与に響いている。「同一労働、同一賃金」でこの傾向は強まるかもしれない。

 ③財布の紐が硬いのは企業だけではない。家計の消費の伸びは所得の伸びを下回っており、その原因は年金、医療、介護などの将来不安も一因になっている。

 企業の好業績を家計の所得上昇につなげ、それが消費増加、消費関連中小企業の業績改善につながる好循環を実現するには、「3%賃上げ」の掛け声だけでなく、総合的な対応が必要だと思う。

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