わたしの意見-
水野 創

アベノミクス6年間、好循環には至らず

水野 創[ちばぎん総合研究所取締役会長]

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2019年5月24日号に掲載)

水野 創[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 1~3月期の実質GDP1次速報が公表された(20日)。前年同期比プラス成長を続けたが、米中覇権戦争の影響を受けている企業部門が今後発表される法人企業統計の結果次第で振れるので、基調判断は6月10日公表予定の2次速報を待つ必要があると思う。

 そして景気の先行きは、統計の数字より当面のトランプ大統領の動きや消費税率引き上げ、衆院解散・総選挙の有無等政治的要因、2020オリパラに向けた高揚と反動により左右される。

 こうした波乱要因への備え、体力がどのくらい強まってきたか、今回の発表で明らかになった2018年度とアベノミクス開始前の2012年度を比較することで確認しておきたい。

 ①実質GDPは6年間で7.2%増加した。ならしてみれば毎年1%強の成長となる。

 ②成長の背景は海外景気の回復を映じた輸出の増加(28.0%)とその恩恵を受けた企業の設備投資の増加(20.7%)の効果が大きい。

 ③物価上昇の影響も含み、所得、税収等の実感に近い名目GDPは、6年間で11.3%増加と毎年2%弱成長した。実質GDPの増加との差が物価上昇で年率2%には遠い。

 ④企業業績の回復を映じ、雇用者報酬も6年間で11.8%とほぼ名目GDP成長率並みの増加となった。雇用者数に比べ、一人当たり賃金の伸びは小さい(毎勤統計:12年→18年増加率 雇用者数8.8%、賃金2.6%)。個人にとって回復の実感は乏しいと思う。

 ⑤所得の増加にもかかわらず、6年間の消費支出増加は名目で5.0%、実質で2.3%にとどまっており、消費性向は大幅に低下している(12年度114.5→18年度107.6 GDPベース「個人消費÷雇用者報酬」)。

 アベノミクスの好循環は、輸出増加→同関連企業の企業収益改善→設備投資・雇用増加・賃金引上げでとどまっている。雇用者所得増加→個人消費拡大→同関連企業の業績回復には至っていない。

 この段階で海外部門に問題が生じたり、個人消費拡大を阻害する状況が生じれば、アベノミクス全体への影響も大きくなる。

 今後の政権・政策運営にあたっては、こうした状況も考慮されるだろう。

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