わたしの意見-
水野 創

大きく異なる経済指標の使用法―岸田首相と安倍元首相

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2022年1月20日号に掲載)

水野 創[ちばぎん総合研究所 前取締役会長]

 文藝春秋2月号に岸田首相、安倍元首相がそろって登場している。岸田首相は「新しい資本主義」について寄稿、安倍元首相はインタビュー「危機の指導者とは」だ。

 前者は経済、後者はリーダーシップが主題だが「経済再生で2回の増税を果たす」と経済にも触れている。そして、経済指標の使い方の違いが興味深かった。

 岸田首相は、労働分配率やGDPに占める消費の割合、イノベーション関連など多くの指標を、欧米主要国とも対比しつつ中長期的な時間軸で示し、世界と日本の今の資本主義の課題を指摘している(図表1)。そして分配と成長の好循環の実現が、日本の抱える財政、社会保障、少子高齢化等の構造的問題の解決にもつながると説いている。

 これに対し、安倍元首相は、正社員の有効求人倍率、就職内定率、雇用者増加数にのみ言及(図表2)。「政権発足時、総選挙に勝つためには、経済再生により国民の期待に応えることが必須だった。その政治的資産で、2度の消費税率引き上げも可能になった」と強調。海外比較や中長期的な変化・財政再建以外の構造問題の指標には全く触れていない。

 岸田首相は格差拡大、気候温暖化といった最近の思潮を柔軟に取り入れて「聞く耳」を持つ政治家の持ち味を示し、安倍元首相は、多くの指標の中で、国民の収入・生活に直接かかわる雇用の改善を総選挙での勝利、すなわち国民の支持の背景をしてあげ、選挙に強い政治家の鋭い直観を感じさせる。

 一方で、二人とも、従来はキーワードであった「2%の物価上昇・デフレ脱却」や「TPP11・RCEP等経済連携」について触れていない。コロナ禍、米中対立激化等を経た局面変化だろう。

 指標を示された側も、判断基準を明確にしたうえで、評価しなくてはと改めて思った。 

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