Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

ウイズコロナを前提とした行動制限緩和方針

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2021年9月13日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 政府は先週9日、19都道府県における緊急事態宣言の延長とともに、ワクチン接種の進捗状況を踏まえた上で、ワクチン接種・検査陰性証明(ワクチン・検査パッケージ)や飲食店第三者認証等を活用し、各種行動(飲食、イベント、広域移動等)の制限緩和を進める方針を公表。


 【関連資料】(首相官邸、内閣官房ホームページへリンク)
  「ワクチン接種が進む中における日常生活回復に向けた考え方
  「新型コロナワクチン接種証明の利用に関する基本的考え方について
  「ワクチン接種が進む中で日常生活はどのように変わり得るのか?


 この方針は海外事例を含めこれまでの経験を踏まえたものだが、ポイントの第1は、今後ワクチン接種が進んだとしてもどうやらコロナ感染は終息せず、「ウイズコロナ」を前提とせざるを得ないと判断したこと。人口の約1割を占める12歳未満が接種非対象であることや、対象年齢層でもある程度非接種となる(先行接種となった65歳以上で1割程度、年齢が下がるにつれ高まる)ことなどを踏まえると、接種比率は最大でも国民全体の7~8割。デルタ株等の感染力の高さにより、期待されていたような集団免疫の確立は暫く難しそうだ。


 第2にそれでも、各種研究結果に基づき、ワクチン接種には感染・発症や重症化の抑制に一定の効果があると判断。事実、感染者に対する致死の比率は、4~6月の1.7%から7~9月は0.2%に低下。接種が完了しても感染(「ブレークスルー感染」)し得ることから、ワクチン証明活用の有効性を否定する論調はあるが、何事にも完璧はなく、確率論で考えることが大事だ。インフルエンザのように手軽な経口薬が普及するまでは、経済活動と感染・重症化抑制の両立実現にとって、ワクチン接種・検査陰性証明の活用が、万能でないにせよ有効な手段となり得る。


 第3に、政府は感染防止策の徹底も求めており、条件付きの緩和である。専門家によると、行動制限を緩和するとしても、マスク着用やテレワークの活用などにより、接触機会を通常より4~5割程度低減することが必要とされる。


 この方針には賛否両論あるが、長引くコロナ禍での経済回復を目指した現実的な取組みと前向きに評価したい。ただ、政府には、これまでの対応や説明が必ずしも納得感のあるものではなかったことを十分認識した上で、今後は丁寧な検討と運用、説明に努めることも期待したい。


 政府が、感染状況や国民的議論を踏まえ具体化を進めていくという、柔軟な対応姿勢を示していることは適切だ。漸く本腰を入れ始めた医療体制の強化は、人々に一定の安心感を与える上で重要であり、PCR等の検査体制の充実も、健康上の理由等からワクチン接種できない方が陰性証明を手軽に利用できるために必要な措置である。加えて、経口薬の早期普及も期待したい。

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