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寄稿記事

期待と不安が交錯する「骨太の方針」【日本経済新聞[エコノミスト360°視点]】

(日本経済新聞 2026年8月28日号朝刊に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 高市早苗政権は7月、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2026」を公表した。「責任ある積極財政」の考え方のもと、政府が一歩前に出て17の戦略分野への投資を進める。

 この骨太の方針に対する国民や金融市場の主な不安は、①財政の持続可能性が確保されるのか②政府が分野を特定した上で適切な産業政策を実現できるのか――ということだろう。

 ①の不安に対し政府は、40年度までの「中長期の経済財政に関する試算」を示した。成長戦略が実現すれば、債務残高の対名目国内総生産(GDP)比率が低下するとしている。ただ、同試算は2つの点に留意が必要だ。

 まず、債務残高比率の高さだ。200%超の比率は低下するものの、40年度でも170%に上り、最近の主要7カ国(G7)の中では圧倒的に高い。仮に消費減税の恒久化などで追加的な財政支出が発生すれば、財政の持続可能性に疑念が高まり、国債金利は上昇しやすくなる。

 次に、かなり高い生産性上昇を見込んでいることだ。生産性の成長寄与は現在0%台半ばだが、成長戦略が実現することで、1%台半ばへ高まることを想定する。この値はバブル期を含む1981〜90年度平均の1.8%に近く、極めて野心的と言える。

 この点は、②の不安である産業政策の成否と密接に関連する。キャッチアップ過程を終えた先進国では官主導の分野選択は難しい。24年にノーベル経済学賞を受賞した米マサチューセッツ工科大学のダロン・アセモグル教授は、政府の役割として重要なのは、特定分野を示すことではなく、イノベーションを促す制度整備だと主張する。

 しかし、リスクが大きい分野に民間投資の呼び水として政府が優先的に支出し、中長期の供給力を強化する政策は「モダン・サプライサイド経済学」として知られる。こうした政策は、公的関与が大きい中国経済の台頭に伴い世界的に広がっており、投資不足が大きな課題となってきた日本でも一定の妥当性はある。

 政府が戦略を示すことは、民間にとって道標となり得るだけではない。少なくとも経済安全保障分野では政府の関与は欠かせない。複数年度にわたる予算編成の導入も、こうした重要分野への長期の財政支出をしやすくするものであり、評価できるだろう。

 その上で課題を2つ指摘したい。第1に、アセモグル氏が主張する制度整備の重要さだ。この点で骨太は、分野横断的な課題としてスタートアップ創出や人材育成など8項目を示している。不断の制度改革を強く期待したい。

 第2に、政府による分野特定は、バラマキ色を強めるリスクがあることだ。役所が戦略分野の「御旗」のもとで予算請求し、民間も政府の投資や補助金を引き出そうとする。財政規律は重要な課題である。政府は効果を検証するとともに市場の警鐘にも耳を傾け、場合によっては撤退する勇気も求められる。

 「挑戦しない国に未来はない」という骨太の主張には賛同する。だが、挑戦ではリスク管理の意識も大切だ。

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