Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

首相の交代と経済政策

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2020年8月31日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 8月28日金曜日、突然、安倍首相が辞任を表明した。自民党の総裁選を経て、9月中にも、新しい首相が誕生する見通しだ。安倍首相は、経済の再生を「1丁目1番地」として、金融政策・財政政策・成長戦略の3つから成る「アベノミクス」を推進してきただけに、新首相のもとでの経済政策が気になるところだ。以下、現時点における私なりの考え方を示してみたい。


 まず、新型コロナ禍においては、スピード感や分かりやすさなどに関し多少の差異はあるにせよ、誰が首相になっても、財政・金融政策に大きな違いはないと考えられる。パンデミックが収束するまでの間は、国民生活の基盤を守ることが最重要課題であり、積極的な財政出動とそれを側面支援する金融緩和のポリシーミックスは、暫く維持されると考えて間違いない。株価が、辞任報道の直後に大きく下げたあと、報道前の水準を取り戻していることには、そうしたマクロ政策が継続されるという市場参加者の見方が影響している。

 一方、日本経済の長期的な行く末に影響する成長戦略については、新首相によって大きく変わり得るものである。安倍首相は、法人税改革、コーポレートガバナンス改革、インバウンド拡大など、過去の首相に比べると積極的に成長戦略を推し進めてきた。ただ、そうは言っても、金融・財政政策に比べれば十分とは言えず、新首相にとって取り組むべき課題は多い。

 政府は7月に決定した「骨太の方針」において、新型コロナの経験を踏まえ、①行政・民間双方におけるデジタル化の加速(デジタルニューディール)、②東京一極集中の是正と地域の活性化などを掲げ、「10年かかる変革を一気に進める」との方針を明確にしている。その方向性は誰もが共有するだろうが、問題は中身であり実行力である。例えば、デジタル化について言えば、 IT 基本法が 2001年に施行された際、「5年以内に世界最先端の IT 国家になる」と宣言し、デジタル化を進めてきたはずだったが、今回のコロナ禍で実態を伴わないことが露呈したという経緯がある。また、地方分散や地域活性化という名のもとに、成長力の押し上げに繋がらないバラマキが繰り返されるリスクもある。地方へのインフラ投資に関しては、例えば、これまで千葉県などで行われきたような成長力向上に貢献するものが望ましく、政府債務が残るだけの「国民にとっての負の遺産」とならないよう、内容をしっかり見極めていく必要がある。


 安部首相は、“Buy my Abenomics”といった海外投資家に対するアピールも一定の評価を受けてきた。新首相には、そうした国内外へのアピール力を磨くとともに、真に日本経済の長期的な成長力向上に繋がる成長戦略が立案・実行されるよう舵取りを期待したい

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