Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

コロナショックと価格設定

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2020年9月9日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 新型コロナ感染症拡大のもとで、景気はリーマンショック時以上に大きく落ち込んでいるが、今のところ、物価の下落は目立っていない。消費者物価指数(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比は、小幅のプラスで概ね安定的に推移(図表1)。リーマン時には、半年強で前年比が1%超のプラスからゼロ近傍まで低下したことと比べると、今回の物価は粘着的とも言える。


 その背景には、リーマン時に大幅な円高となったドル円相場が、今回は105円程度で安定的に推移していることもあるが、より重要なものとしてショックの性格の違いがある。リーマンショックは、金融危機発の需要ショックである。一方、コロナショックは、需要ショックであるが、供給ショックでもある。緊急事態宣言時には、生活必需品を販売するスーパーでも入場制限が行われ、来店喚起の買物ポイントや特売セールも抑制された。飲食店などでは、感染拡大防止のため、今なおサービス提供が制限され、消毒など対策のコストも増加している。その結果、需要減少の割に、価格を引き下げる行動が広がりにくくなっている。


 問題は、先行きコロナが収束に向かい、供給制約が和らいでいく際の価格動向だ。一つのポイントは、再び持続的な経済成長、ひいては賃金上昇が見込めるかどうか。図表1にみられるように、リーマン時には、景気低迷が長引くに連れ、物価やその背後にある賃金の下落が明確となった。その点では、これまでも繰り返し指摘している、中長期的な成長力の強化が必要である。


 もう一つのポイントは、永年のデフレもあって定着してしまった安値競争に陥りやすい日本企業の価格設定行動が、どの程度是正されるか。消費者へのアンケート調査によると、コロナ禍では、価格よりも安全・信頼(品質)を重視する傾向が、以前よりも強まっているようにも窺われる(図表2)。企業としては、今回のコロナ禍を、やや長い目でみても安値競争を是正する好機にしたいところである。

●当ウェブサイトに記載されているあらゆる内容の著作権は、株式会社ちばぎん総合研究所及び情報提供者に帰属し、いかなる目的であれ無断での複製、転載、転送、改編、修正、追加など一切の行為を禁じます。