Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

米大統領選挙の行方と影響

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2020年9月23日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 日本では菅新政権が誕生し、その運営が注目される。同時に今後は、11月3日に行われる米国大統領選挙への関心も高まるだろう。不確実な要素は多いが、今後の展開をみる上でのポイントを整理してみたい。


 まず、選挙の行方について専門家の中心的な見方を纏めると以下のとおり。


 ①直近の世論調査による平均支持率(9月22日時点でのリアル・クリア・ポリティクス調べ)は、民主党バイデン49.7%、共和党トランプ43.1%と、バイデンが6.6ポイントのリード。4年前のクリントンのリード(9月時点で2~4ポイント程度)を多少上回り、全米の支持率をみる限りバイデンやや優勢と言っても良い。


 ②しかし、大統領選挙は殆どの州が勝者総取り方式であるため、全米の支持率通りにならない。いずれの党の地盤も明確でないフロリダやペンシルバニアなど、10州前後あるとされる「スイング・ステート」での勝敗が、結果を左右。それらの州では支持率の差は小さく、どちらにも転び得る。世論調査で態度を表明しない「隠れトランプ支持」が相応に存在することも、調査の精度を低下させている。


 ③今後の最大のポイントは、来週の9月29日を皮切り(その後10月15、22日)に計3回予定されている「テレビ討論会」で、トランプに比べ議論が不得手とされるバイデンが乗り切れるかどうか。また、景気・株価、ワクチン開発、黒人差別抗議デモの動向を含め、今後の出来事が“October Surprise”として現職トランプに有利に働くかも影響。


 ④「密」回避のための郵便投票拡大に伴い、開票が遅れる可能性が相応に高い。また、トランプが投票の有効性に疑義を唱え、混乱が生じるリスクもある。


 次に、バイデンが勝利した場合の米国経済への影響。基本的に、コロナ禍では積極財政と金融緩和を継続せざるを得ないため、両者で当面の経済動向に大きな差は生じないとみてよい。ただし、バイデンになると、環境・IT分野への大規模投資や、政策の予見可能性が高まることがポジティブ材料。一方、民主党の理念に沿った「格差縮小」に配慮する左寄りの政策姿勢(法人や富裕層への増税など)を強める場合には、株価がいったん大きく下落する可能性に一応の注意が必要か。


 最後に、バイデン外交については、①トランプとは正反対に、多国間主義、環境重視、人権重視を押し出すほか、理念中心の民主党の方針に即しボトムアップの形で外交を推進する、②対中関係では、反中姿勢に大きな変化はないが、2国間で火花を散らしていたトランプ政権とは異なり日本も巻き込む多国間での対応となる、との見方が多い。トランプ・安倍の信頼関係に依存していた日本外交にとって、難度が増すとの指摘が聞かれる。

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