Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

明暗入り混じる雇用情勢

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2020年12月9日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 労働市場では、経済活動の持ち直しを反映して、このところ需給緩和に歯止めが掛かりつつある(図表1)。有効求人倍率をみると、全国・千葉県とも、本年入り後は1月をピークに急速に低下したが、8月以降は横ばい圏内の動きとなっている。またその水準は、全国・千葉県ともに、リーマンショック後の2009年のボトムを大きく上回っているうえ、その直前の2006~7年のピーク並みを維持しており、景気の大幅悪化ほどには労働需給が緩んでいない


 このように景気に比した労働市場の底堅さには、①人口動態からみた長期的な人手不足懸念②いずれコロナの影響は収束し経済活動も元に戻るとの予想③雇用調整助成金の強化といった政府の支援策、などが寄与している。


 一方、そのことは余剰人員を抱える企業が増えている可能性を示唆する。日本全体でみると、7~9月の実質GDPは前年比-5.7%と大幅に減少する一方、労働力調査による雇用者数は7~9月で-1.3%の減少にとどまる。その分、1人当たりの労働生産性が低下しているという計算になり、企業収益の圧迫要因ともなる。


 このため、今後、景気回復が維持されるとしても、賃金・雇用の両面において改善に時間が掛かるとみられる(図表2)。賃金面では、冬季賞与は夏季以上に大きく減少する。千葉経済センターによるアンケート調査によると、賞与支給額の前年比は、夏季の-2.6%から冬季には-5.5%へと減少幅が拡大している。来春のベアについても、大手企業の中には要求に慎重さを示す労組もあると報道されている。雇用面では、新卒採用は相応に維持されるとみられるが、非正規中心に抑制傾向が続きそうだ。


 今回のコロナ禍においては、分野による需要のバラツキが大きく、企業業績の格差も拡大する方向にある。業績が厳しい先では守りを優先することになろうが、業績が良好な先では、構造的な人手不足に対応するため、労働需給の緩和を採用拡大の好機としたいところだ。政府の対策も、当面は雇用維持に軸足を置かざるを得ないとしても、徐々に労働移動を促す施策にも注力していくべきだろう。

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