Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

日銀金融政策──緩和の持久戦を意識した微修正

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2021年3月22日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 日銀は3月19日の金融政策会合で、より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検結果と施策を決定。短期金利の-0.1%や10年債金利の0%程度を含め、強力な金融緩和スタンスは不変だが、幾つかの技術的な点を修正


 ①株式上場投資信託(ETF)について、これまでは年間買入ペースを原則約6兆円、上限約12兆円としていたが、原則を削除。上限12兆円の範囲内で、株式市場動向によって大きく増減させる、よりメリハリをつけた買入方式に修正。


 ②10年物の長期金利について、0%程度で低位安定させることは不変だが、市場取引が活発化するよう±0.25%程度での変動を許容することを明確化。


 ③先行きの長短政策金利について、状況次第ではさらに引き下げる方針を明示。その際、同時に、金融機関収益への負荷を和らげる副作用対策を実施する方針も示した。


 これらは、金融市場取引や金融機関収益に対する副作用を軽減しつつ、金融緩和をより持続させるための工夫だ。日銀は、いざという時には機動的にETF買入の大幅増加や更なる利下げも可能になり、より効果的な面も持つとしている。


 日銀は、2013年に国債やETFの買入等によって資金供給を大幅に増加させる量的質的金融緩和を開始。その後マイナス金利の導入を経て、2016年からイールド・カーブ・コントロール(YCC)という長短金利をターゲットとした持続可能な枠組みにシフトした。2%という物価目標がなかなか実現できないもとで、量を大幅に拡大し続けることが困難となったことが主たる背景。ただし、長期金利があまりにも0%近くで動かなくなり、市場取引が大きく減少した。その間、ETFについては、総じて積極的な買入が継続されてきた。


 今回の取り組みは、コロナショックの影響もあって2%物価目標の実現がさらに遠のくなか、金融緩和の持久戦をより意識したものである。特に、ETF買入については、約30年ぶりの株高となる中で積極的な買入継続に対する批判が高まっていただけに、良好な市場環境においては株高を増幅させ得る買入は控えめとし、コロナショックのような非常時のために「弾薬」を確保する方式に修正。


 今回の施策は、いずれも技術的かつ分かりにくい修正だが、金融市場や金融システムの安定を図りながら、金融緩和を継続するというという点において大事なものだ。企業経営者としては、「安定的な金融緩和環境が向こう数年間続く」といった日銀からのメッセージと受け止めておくことが適当だろう。

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