Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

コロナ禍で急増した家計貯蓄

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2021年6月15日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 新型コロナワクチン接種が急速に進み、感染収束に伴う個人消費の回復を期待してもよさそうな局面に差し掛かりつつある。先行きの消費を占う上では、家計貯蓄が一つの鍵となりそうだ。


 先週公表された日銀の貸出・預金動向(速報)によると、5月の預金の前年比は+8.0%と、それまでの+9%台からは幾分低下したが、高い伸びを維持。別の統計で4月までの預金の前年比を、法人・個人別にみると、ひと頃急速に高まっていた法人の伸びが鈍化に転じる一方、個人は法人対比で低めなものの堅調な伸びを持続している(いずれも下図)。


 法人では、コロナ禍で資金繰りに万全を期すため借り入れた手元資金を積み上げていたが、最近では資金の更なる積み上げまでは不要とする先が増えているようだ。一方、個人については、社会全体としてみれば収入が何とか維持されるもとで、感染拡大で支出抑制を続けざるを得ないことが、持続的な預金増加に繋がっている

 
 個人預金(全国銀行・信金)をみると、20年1月末から21年4月末にかけてのコロナ禍15か月間の増加額は45兆円コロナ前3年における同15か月間の平均増加額と比べると、可処分所得の9%に相当する28兆円も拡大している


 日銀は4月に公表した分析で、コロナのため本来の消費機会を逃したことで積み上がった預金を「強制貯蓄」と呼んでおり、特別定額給付金によるものを除き、昨年1年間で20兆円程度に上ると試算。約13兆円の定額給付金が貯蓄に回った部分や本年入り後の貯蓄継続を踏まえると、上記の28兆円は最近までの個人全体の「強制貯蓄」と考えてよさそうだ。


 日銀によれば、「強制貯蓄」は主として中高所得者層で発生。同層では、抑制せざるを得なかった外食や旅行など、選択的サービスの消費に占める割合が高いため。外出を控えた高齢者層の「強制貯蓄」も増加しているとみられる。


 「強制貯蓄」が消費に向かっていくスピードは、感染の収束ペースだけでなく、人々が将来の経済成長や所得増加にどの程度自信を持てるかにも影響される


 企業としては、「強制貯蓄」が多い層を主に意識した魅力的なサービス・商品の提供を含め、付加価値や生産性を高めるための一層の取り組みが重要だ。

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