Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

金融政策でもグリーン化の促進を意識

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2021年7月20日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 日本銀行は先週の金融政策決定会合で、展望レポート(「点描」7月16日号参照)のほか、「気候変動対応を支援する新たな資金供給」(俗称「グリーンオペ」)の骨子素案も決定。併せて、民間金融機関経営のモニタリング(リスク管理、取引先企業の脱炭素化支援など)、自らの外貨資産運用や情報開示などの観点を含め、気候変動に関する日銀全体としての取組み方針も公表した。


 資金供給の内容は、民間金融機関が自らの判断で取組む気候変動対応の投融資(グリーンファイナンス、トランジションファイナンスなど)を、多少のインセンティブをつけてバックファイナンスするもの。2030年度までの長期にわたり実施することで、日本の脱炭素・グリーン化の取組みを後押しすることを狙っている。今後、詳細を詰めて、年内に開始する方針だ。


 こうした中央銀行が金融政策面でグリーン化を促進するという取組みは、日銀に限られたものではない。欧州では、欧州中央銀行(ECB)や英イングランド銀行(BOE)が、早くから日銀以上に積極的な姿勢を表明。ECBは脱炭素に取組む企業の社債を有利な条件で買う方針を決め、いわゆるグリーンボンド(環境債)の直接買入拡大の可能性を示した。BOEでは脱炭素への移行が金融政策上の責務に加えられた。日銀はそこまでの対応に踏み切っておらず、グリーン化に対する国民の熱意の違いなどによるものと考えられる。


 グリーン化への政策対応は基本的に政府の領域にあるものだが、主要中銀で取組みが拡がっている背景には、世界的にみた気候変動問題の深刻化と金融経済への影響の増大、それへの対応を意識したグリーン化の潮流の加速などがある。日銀やECBは、「気候変動が長い目でみて物価安定に大きな影響を及ぼしうる」として、(1)物価安定という自らの責務遂行の観点から対応が必要と主張している。こうした新規分野においては、(2)金融の役割も大きいため中銀としての取組みが重要という観点もあるだろう。


 グリーン化には、幅広い主体の取組みが必要だ。このうち民間企業は、イノベーションを含めた取組みの主役となることが期待されている。関連して、気候変動の財務情報開示を義務的なものとすることが、6月のG7サミットで支持された。情報開示は基本的に上場企業を意識したものだが、中小企業にとっても気候変動の取組みは、サプライチェーン等を通じて大企業などから求められる方向にあるほか、意識の高い個人客を含めた顧客獲得の観点からも重要になると考えられる。


 今回の日銀の金融政策面での取組みは、従来の中銀の枠をやや超えており、民間の金融機関や企業に対するアナウンスメント効果を含め、グリーン化を促進するための触媒機能を果たそうとしているものだ。特に欧州対比でグリーン化が遅れている日本においては、民間部門にとっての重要なメッセージと受け止めておく必要がある。

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