Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

IMF世界経済見通し──回復持続も供給制約を懸念

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2021年10月14日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 10月12日、IMF(国際通貨基金)の世界経済見通しが公表された。ポイントは以下の3点。


 ①世界経済の回復シナリオ自体に大きな変化はない。20年に-3.1%と落ち込んだあと、21年が+5.9%、22年も+4.9%の成長となる見通し(下表)。


 ②7月見通しと比較すると、デルタ株の拡がりなどを背景に、21年が-0.1%の下方修正、22年は不変。昨年秋以降は上方修正される傾向が続いてきただけに、僅かとは言え下方修正されたことは「回復モメンタム(勢い)の弱まり」を示すもの。


 ③今後のリスクは、成長が下振れ方向の一方、インフレは上振れ方向。これは、コロナ禍からの急速な需要回復に様々な要因から供給が追い付かないといった、供給制約が懸念材料であることを示すもの。


 世界経済は、本年央にかけて、ワクチン接種の普及もあって個人消費を中心に力強い回復を示した。しかし、その後デルタ株の拡がりなどによって消費を中心に需要面への影響がみられたほか、供給面でも、米国などにおける労働力不足、サプライチェーンの混乱による部品不足、エネルギーの価格上昇といった複数の制約要因が顕在化


 このうち労働と部品の供給制約は、摩擦的な現象とみられ、時間の経過とともに徐々に解消に向かうと期待される。例えば、米国ではコロナ禍で失業給付の割増が行われていたことなどにより働きに出ない人々が増えたとされるが、割増は9月までにほぼ終了。部品不足については、新興国におけるデルタ株拡がりに伴う生産停止が主因とされており、多少時間は要するが、新興国の感染抑制に伴い解消に向かうはずだ。


 一方のエネルギーの価格上昇には、米国におけるハリケーンの影響やOPECプラスによる減産緩和の見送りといった短期的要因だけでなく、脱炭素に向けた動きという長期的要因も影響しているとの指摘がある。具体的には、景気回復に伴い需要が増加しても化石燃料全般への投資が行われにくいことや、化石燃料の中でも石炭からCO2を排出しにくい天然ガスに需要がシフトしていることなど。


 海外での供給制約は、日米の金融政策の違いなどを背景とした円安も相俟って、コスト面を中心に日本に負の影響を及ぼし得るものである。世界経済が回復しているからこそ生じている現象とは言え、エネルギー面を中心に、注意が必要だ。

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