Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

岸田政権の経済政策

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2021年12月1日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 岸田政権は11月19日に「コロナ克復・新時代開拓のための経済対策(リンク先:内閣府HP)」、26日には裏付けとなる2021年度補正予算を閣議決定。施策は、①コロナの感染拡大防止、②社会経済活動の再開と次なる危機への備え、③未来を切り拓く「新しい資本主義」の起動、④防災・減災、国土強靭化の推進、の4大項目から構成され、国の一般会計予算は31.6兆円


 昨年来のコロナ対応の財政支出を一般会計ベースでみると(下表)、単純合計で113.4兆円、繰越等に伴う重複部分を除いても合計100兆円程度(GDPの2割程度)には上るとみられる。今回の対策は、経済活動が回復する局面で講じられるため、押上げ効果も高いと期待される。


 岸田総理は就任後、新しい会議を次々と立ち上げている。「新しい資本主義実現会議」、「デジタル田園都市国家構想実現会議」などだ。背後にある思想は、今回の対策にも活かされている。


 一連の取組みには批判も少なくない。典型的には、①「新しい資本主義」が分かりにくい、成長よりも分配を重視し過ぎている、②既存の会議と重なる部分が多いため、会議の乱立により政府内が混乱している、などである。自民党内でも、例えば財政に関し「財政健全化推進本部」と「財政政策検討本部」が設置され、健全化かバラマキか方向性がみえにくいといった批判もある。


 岸田総理の近著、「岸田ビジョン─分断から協調へ」では、「日本型資本主義」の復活を標榜。渋沢栄一が唱えた「合本主義」、すなわち、近年重視されてきた株主利益の追求にとどまらず、公共を含む幅広い関係者への利益還元と幸福を追求する、人間中心の資本主義を念頭においたもののようだ。こうした考えが、賃上げ重視の主張に繋がっているのだろう。


 また、多方面でのバランスを意識していることも読み取れる。分配とともに成長戦略が重要であり、①中間層のリカレント教育や中小企業のガバナンス向上、②ビッグデータ活用の環境整備、③デジタル田園都市構想や農業のスマート化による地方活性化、④国立大学の復活を含めた研究開発力の再強化、などの必要性を指摘している。また、現在は積極的な財政支出が必要だが、財政健全化を目指す姿勢も不断に示さないと、投資家に見限られ円や国債が暴落、国民の将来不安も解消しないとする。この考えが、党内の2つの財政部会に繋がっているのかもしれない。


 総理の主張には共感できる一方、分かりやすさも必要。日本では結果の平等が重視され過ぎるとの見方も少なくないだけに、公正な競争環境の整備も重要だ。国民や企業、内外投資家が、今後のバランスよい経済成長の実現に自信が持てるよう、丁寧かつ実効性ある情報発信と政策遂行を期待したい。

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