Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

2022年に迎える重要な50周年

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2022年2月2日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 2022年も早1か月が経過。オミクロン株の感染が急速に拡大しているが、日本で新型コロナが関心の的となったのが2年前の今頃。その後、世界的に感染が拡大、得体の知れないウイルスとされ、社会や金融経済を一時パニックに陥れた。当時と比べれば、オミクロン株への世界の受け止め方は落ち着いたもので、新型コロナの終わりの始まりといった論調もでるほどだ。

 とは言え、コロナの感染状況は、暫く人々の関心が最も高いイベントであろう。同時に、日本にとって2022年は、幾つかの重要な50周年があることも指摘しておきたい。

 時系列で並べると、沖縄返還(1972年5月)、日本列島改造論(6月)、日中国交正常化(9月)であるが、経済との関係ではあとの2つが重要で、故田中角栄元首相が提唱・実現したものだ。

 このうち日中関係については、中国が大国となり習近平の権力の長期化・強大化が進む現状において、国交正常化50周年が両国関係の流れに大きな影響を及ぼすのかどうか、といった点が注目される。一方の日本列島改造論50周年に私が着目しているのは、岸田総理が「デジタル田園都市国家構想」を掲げているためだ。

 故田中氏による列島改造論は、自民党総裁選を展望し発表した政策綱領で、「工業再配置と交通・情報通信の全国的ネットワークの形成を梃に、地方分散を推進すること」を主旨とした事実上の選挙公約であった。それを礎に第64代内閣総理大臣に上り詰めた。列島改造論の評価は難しいが、オイルショックなどと相俟って物価・地価の高騰を招いたほか、都市圏への人口流出は防げない上に地方都市が多様性を失ったといった、厳しい論評が少なくない。

 これに対し岸田総理の構想は、宏池会(現岸田派)の故大平正芳元首相が1979~80年に唱え、志半ばで他界したため実現しなかった「田園都市構想」を継承したものと、総理が述べている。故大平氏の構想は、「地方の自主性と個性を活かしつつ、均衡のとれた多彩な国土を形成する」ことを目指し、結果的に画一的な国土形成に繋がったとされる列島改造論とは一線を画した。

 「デジタル田園都市国家構想」については、4つの視点(①基盤整備、②人材の育成・確保、③地方の課題解決のための実装、④誰一人取り残されないための取組)が掲げられ、担当大臣から21~22年度の関連事業予算が5.7兆円と示された。ただ、構想の具体論については、政府・自民党がそれぞれの担当会議で議論を進めている段階。国民に分かるような形で具体像が示されるのは、「新しい資本主義」の実行計画と合わせ、夏の参議院選の直前辺りとなりそうだ。

 いずれにせよ、「日本列島改造論」の時代と比べ地方経済の疲弊は激しく、デジタルも活用しつつ地方活性化を図ることは急務であり、岸田政権による具体像が待たれるところだ。ただ、今回の構想のキーワードは、デジタルとともに、個性と自主性でもあり、地域自らの工夫が何よりも重要であることは十分認識しておく必要がある。

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