Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

IMF世界経済見通し──「戦争で弱まる回復力」

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2022年4月21日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 4月19日、IMF(国際通貨基金)の世界経済見通しが公表された。“War slows recovery”との表題にあるように、春以降明確になるとみていた世界経済の回復力が、ロシアのウクライナ侵攻によって抑制されると予想している。一方、インフレ率は、資源高の影響を受けやすい新興国を中心に明確に上振れるとの見通し。

 世界経済の成長率見通しをみると、21年に+6.1%と大きくリバウンドした後、22年+3.6%、23年+3.6%と、前回1月見通しに比べそれぞれ-0.8%、-0.2%の下振れ(下表)。地域別には、ロシア・同周辺地域や資源高の影響を受けやすい新興国のほか、先進国ではロシアとの結びつきが強い欧州の下振れが大きい。

 成長下振れの要因は、①ロシアのウクライナ侵攻による面が中心としつつも、②それ以前から目立っていた世界的な物価高と米国などの利上げの影響、③中国のゼロコロナ政策に伴う幅広いロックダウンとそのサプライチェーンへの影響、など多岐にわたる。

 もともとコロナ禍への対応力の違いから、先進国と新興国で回復のペースが異なるという「K字型経済」が指摘されてきたが、上述の事情からそれがより顕著になるとしている。とくに資源を輸入に頼る新興国では、資源高で対外支払いが増加するほか、米国の利上げに伴う資金流出リスクやそれに対応した国内利上げの影響もあり、経済は厳しさを増すと指摘。

 また、エネルギーや食料品といった生活必需品の価格上昇は、世界的に低所得者層に打撃になり、「社会不安」のリスクを増大させるとも指摘している。

 このように厳しい認識が示されているとは言え、22、23年の+3.6%という世界経済成長率は、コロナ禍前の平均である3%程度を幾分上回るものであり、緩やかながらも回復経路を辿るとの見方自体は維持されている。グローバルにみて株価が大幅な調整に至らず、高値圏で推移していることとも整合的である。また、日本では、円安進行は気になるものの、国内の物価上昇率は他国に比べ低く、金融政策の明確な転換も暫くはなさそうだ。

 企業としては、海外情勢やコスト高にこれまで以上に注意を払いつつも、コロナ禍からの国内需要の回復やコロナ後の成長を見据えた、前向きな取り組みに軸足を置いておくことが重要だ。

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