Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

環境変化が激しい今だからこそ人材投資を

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2022年5月26日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 岸田総理が掲げる「新しい資本主義」の中核の一つが「人への投資」だ。政府は、3年間で4000億円の施策パッケージを新たに創設。

 企業の人材投資額を主要国で比較すると、日本が極めて低い(対GDP比率<05~15年平均>、日0.4%弱、米独仏2%前後、英伊1%超)。また、日本の人材投資額は、90年代のバブル崩壊後、企業の経費削減の影響から減少傾向(下図)。これらは、日本のお家芸と言われた「人を大切にする経営」が崩れた、あるいはそれ自体が幻想であった可能性すら示唆する。

 本統計でみた日本の人材投資の低さには、日本企業が大切とするOJT(実務を通じた教育・訓練)が含まれていないことが影響しており、それを含めれば低くないという反論も可能だ。しかし、人材投資額が減少していることや、OJT自体も拡充されているとは考えにくいこと、さらには、デジタル化や脱炭素などの環境変化が大きい中では、既存の知識やノウハウに依存したOJTには限界があること、などを踏まえると、日本企業の人材投資は不十分と言える。

 欧米では、近年、上場企業が人的資本情報の開示を求められるようになった。ESG投資(企業経営を環境・社会・ガバナンスの観点から評価)への対応が求められる中で、「社会」に該当する人的資本が意識されていることもあるが、不動産・設備などの有形資産ではなく、人的資本を含む無形資産が上場企業の価値の大半を占め、その充実が重要になったことが根本にある(米S&P上場企業価値に占める無形資産の比率、85年32%→20年90%)。

 こうした流れを受け、日本でも昨年から、上場企業が人的資本情報の開示を求められるようになった(上場企業の人的資本経営の事例は、経産省「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書(実践事例集)」を参照)。中小企業にとっても、情報開示は求められないとはいえ、経営を取り巻く環境変化が激しい中では、人材投資に注力することが一層重要となっている。そうした取組みは、人材確保が難しい環境にあって、採用面でも有利に働くはずだ。形態は社内教育、セミナー受講、資格取得、異業種交流など様々で、公的支援も活用しながら、会社のニーズに合わせて行う必要がある。

 当社では、デジタル関連知識の重要性が増すもとで、昨年からITパスポート(エントリーレベルの国家試験)の取得を奨励、研究員・コンサルタントの取得者は倍以上となり全体の5割を超えた。千葉県の発展に貢献するという使命実現のため、人材育成にさらに力を注いでいきたい。

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