Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

岸田総理の「新しい資本主義」

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2022年6月15日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 岸田総理が就任前から唱えていた「新しい資本主義」のグランドデザイン及び実行計画が、先週閣議決定された。参考資料まで合わせると200ページを超え、極めて大部なものだ。

 識者からの評判は「総花的」など必ずしも芳しくないが、私としては、岸田政権が目指す新しい世界観、それを実現するための経済政策を示すものとして、前向きに評価したい。

 今回の発表前までは、総理の考えは分配に重点を置き過ぎで、資本主義ではなく社会主義を目指すのではないかとの批判も聞かれた。実際には、成長に力点が置かれ、「資本主義を超える制度は資本主義でしかあり得ない」と明言。以下のとおり、幾つかの重要な基本的考え方も示す。

 第1に、従来のような「市場か国か」、「官か民か」の選択ではなく、「市場も国家も」すなわち新たな官民連携が重要とする。これは、市場に任せればうまくいくという「新自由主義」が格差拡大、気候変動問題、経済安全保障リスク、都市部への過度な人口集中といった弊害を生みだしたことへの対応だ。

 第2に、社会的課題を障害物ではなくエネルギー源と捉え、官民連携によって新たな成長に繋げていくとする。

 第3に、適切な分配はコストではなく成長への投資と捉える。日本の場合、成長の果実が、地方や取引先、従業員給与や研究開発・設備投資に十分に分配されないという「目詰まり」が存在し、次なる成長のためにはその解消を必要とする。

 その上で、人材育成を含めた人への投資を特に重視。科学技術・イノベーションへの重点的投資、スタートアップの起業加速についても、官民が連携しながら取り組んでいくとしている。産業政策については、長らく国の直接的関与が控えられていたが、戦後の通産省の役割ほどではないにせよ、国の積極的な関与が予想される。

 今回の構想は地方にとっても意義深い。「新しい資本主義の象徴は地方・地域」としたうえで、地域の多様性を生かしつつデジタル化で社会課題を解決するという「デジタル田園都市国家構想」を重要な柱の一つと位置付ける。農林水産業の担い手不足や高齢者の移動困難といった問題の多くは、ドローンや自動運転を含めたデジタル技術の活用で対応することが可能だろう。

 ただし、デジタル化はあくまでも手段であり、大事なのは地域が目指す姿だ。デジタルインフラが一様に整備されればされるほど、地域の真の実力が試される。その際、データ活用を含め、自治体が住民、企業などと密接に連携することが重要となる。

 今後、工程表に沿って、予算措置を含め政府の具体策が明らかになっていく。それぞれの企業や自治体にとって、重要と思われる分野の展開を注意深くフォローしていくことが大事だ。

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