Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

変化する企業の物価観──日銀6月短観(2)

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2022年7月6日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 今回は日銀6月短観の第2弾として、企業の物価観や価格設定行動についてみてみたい。

 価格判断DIを全規模・全産業ベースでみると(図表1)、上昇を指摘する企業の割合が大幅に増加し、先行きもさらに多くの先が上昇を見込む。最大の理由は仕入価格の上昇によるものだが、似たような仕入価格上昇があった2008年頃に比べ、今回は販売価格の上昇が際立つ。

 企業規模別に販売価格DIをみると(図表2)、従来は大企業に比べ価格下落を訴える割合が多かった中小企業において、上昇割合が大企業を若干上回る。

 企業の多くはコスト上昇を転嫁し切れていないとはみられるが、従来に比べれば転嫁が進んでいるようだ。これには、コロナ禍を背景としたサプライチェーンの混乱やサービスの供給制限、ウクライナ情勢に伴うエネルギー・穀物高などから、企業として値上げを説明しやすくなっていることが背景と考えられる。中小企業でも値上げが可能となっているのは、その理由が明確になっていることの影響が大きい。

 中小企業・非製造業について業種別に販売価格DIをみると(図表3)、価格上昇が目立つのは、行動制限緩和に伴い消費需要の回復が明確になっている卸・小売と宿泊・飲食サービス。今のところ消費者は、過去2年の消費抑制の反動や金融資産の積み上がりの効果などから、渋々ながらも値上げを受け容れているようだ。

 企業は販売価格の先行きについて(図表4)、1年後にかけて明確に上昇したあとも緩やかな上昇を続けるとの見方にあり、とくに中小企業の上昇幅が大きい。

 ただし、こうした持続的な価格上昇が可能となるためには、消費者が物価上昇を受け容れ続けることが前提。金融資産の積み上がりなどのプラス効果は、いずれ減衰する。消費者が評価するような商品・サービスの改善と賃金の上昇が持続的に実現していくことが重要だ。

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