Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

中小企業でも拡がる賃上げの動き

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2023年3月16日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 約40年振りの物価上昇と強まる人手不足の中で、今後の賃金動向が注目されている。

 連合が纏めた今春闘における労働組合の賃上げ要求は4.5%(定昇含む)と昨年の3.0%を大きく上回り、95年(4.9%)以来の高さとなった(図表1)。

 妥結について、民間エコノミストでは3%弱の予想が多かったが、昨日の集中回答を含む回答状況をみると満額回答の先も多く、3%台半ばまで高まる可能性もでてきている(昨年は2.1%)。その場合、定昇部分(1.6~1.7%)を除くベースアップは2%近くまで上昇する(昨年0.6%)。 

 連合の集計は大企業のウエイトが高いが、中小企業についても昨年を上回る賃上げとなりそうだ。今春の中小企業の賃上げ実施割合について、日本商工会議所では6割程度と昨年を1割程度上回る見通しを示し、日本政策金融公庫のアンケート調査からも同様の傾向が窺われる(図表2)。

 日本公庫の同調査で最近の賃上げ理由を尋ねると、業績改善が前年から減少する一方、物価上昇が大きく増加している(図表3)。高い物価上昇に苦しむ従業員の生活安定や勤労意欲確保の観点から、賃上げしている企業が増えている姿だ。

 先行きをみると、景気の回復や構造的な労働供給減から、人手不足はさらに深刻化する可能性が高まっている。日本全体の労働供給増を支えてきた女性やシニア層の労働市場への参入が、頭打ちになりつつあるためである。

 女性の子育て世代(20~40代中心)の労働力率は、過去10年で10%程度上昇し、80%程度まで上昇。これは米国を上回り世界最高レベルのスウェーデンに迫るもので、上昇余地は限られる。またシニア層では、労働供給源となってきた人口の多い団塊世代が75歳に差し掛かりつつあり、流石に労働供給が絞られそうだ。

 労働力の確保は、働きやすさや社内教育の充実など様々な要因に左右されるが、賃金も重要な一因。物価上昇に直面した今、中小企業を含め企業経営の安定・発展にとって、賃上げ力も重要な要素となりそうだ。

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