Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

海外の金融情勢:過度な懸念は不要だが一定の警戒も

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2023年3月23日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 先週、欧州の中央銀行であるECBが0.5%の利上げを、昨日は米国のFRBが0.25%の利上げを決定。米国のシリコンバレー銀行(SVB)の破綻やスイスのクレディスイス(CS)の経営不安などによって、米欧の金融システムへの懸念が高まるもと、中銀が利上げを見送るとの見方も一部にあったが、高インフレの抑制を主軸に対応したようだ。

 一方、金融システムに関しては、米国ではSVBなどの預金全額保護、欧州ではスイス政府の支援を伴うUBS(スイス金融最大手)のCS買収といった異例の対応によって、安定を確保しようとしている。また、日本を含む主要6中銀は、協調して世界的なドル資金供給策を強化し、グローバルに活動する金融機関の円滑なドル調達を支援していく方針を早期かつ明確に示した。

 各種の施策で金融の安定確保に万全を期しながら、利上げの継続によってインフレを抑制しようとしており、米欧の当局が金融・物価安定の二兎を追う姿勢を明確にしたものと言える。

 SVB破綻後には金融株中心に株価が大きく下落するなど、グローバルな金融市場は不安定な動きを示したが、株価は昨年からのレンジ内にとどまり、落ち着きを取り戻す兆しもみえる。当局の対応が一先ず安心感を与えているということだろう。世界金融危機を引き起こした2008年のリーマンショックの再来かといった見方もあったが、過度な懸念までは不要だろう。

 リーマン後はグローバルに活動する金融機関の規制が拡充されたほか、主要国の金融当局が協力しながら危機を未然に防ぐ体制が強化された。また、米国で破綻したSVBなどは国内で活動する銀行で、当時のリーマンブラザーズのような国際的に活動する金融機関とは異なる。なお、CSはグローバルな金融機関だが、かねてより相次ぐ不祥事などから経営の不安定さが懸念されていた先であり、当局の備えもできていた感がある。

 ただ同時に、米欧におけるコロナ危機後の大規模な金融財政政策で生じたひずみが、最近の急速な利上げと相俟って、金融や経済の不安定化に繋がり得る現象が散発的に出現してくる可能性もないとは言えない。

 SVBの破綻は、①金余りの中で特にDXなどのスタートアップに投資資金が集中し、同行がその多くを預金として受入れ債券で運用していたこと、②大幅な金利上昇に伴って、スタートアップのブームが一巡し資金が流出すると同時に、運用債券で大きなロスが生じたこと、などが背景とされる。ブームが大きかった分野で、リスク管理の甘さもあって、ひずみが顕在化したようだ。

 コロナ危機やウクライナ情勢によってグローバルな環境が大きく変動してきただけに、金融や経済の展開について一定の警戒感を持ち続けることも大事だ。

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