Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

リスキリング─企業、行政、個人とも意識を高める必要

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2023年4月18日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 岸田政権は、「人への投資」を新しい資本主義の第1の柱に掲げ、5年間で1兆円を投じると表明。その中で「リスキリング」の重要性を強調している。リスキリングは「学び直し」を意味するが、デジタル化や脱炭素など大きな環境変化の中で、個人が新たな仕事や業務を始めるために必要なスキルを身につけることだ。

 政府は、個人のリスキリングの重要性を指摘するに際しては、新しい産業や成長企業への労働移動の促進を強調している。失業保険給付にしても、自己都合で退職した個人への保険給付を迅速に行い、会社都合の退職のケースに合わせる方向性を打ち出した。在職中のリスキリングの支援と合わせ、転職を促すような仕組みづくりを模索している。

 これは従来の政府の施策が、企業の売上げが大幅減となった場合に雇用調整助成金を給付するなどによって、雇用者が同一企業にとどまることを支援する色彩が極めて強かったためだ。そうした日本特異の過度な労働保蔵のインセンティブを修正し、できるだけ労働移動を促進する仕組みにすることが、環境変化の下で産業構造の円滑な調整に繋がるとの考えに基づいている。

 しかし、リスキリングの目的は、労働移動の促進だけではなく、企業が従業員のリスキリングを支援することも含む。企業が環境変化に対応するうえで、DXなどの新しい仕組みを導入する、新規分野に進出するような場合にも、従業員が新しいスキルを身に着けることが必要となる。

 この点、政府は昨年12月から、人材開発支援助成金の中に「事業展開等リスキリング支援コース」を創設するなどの措置を講じている。同コースは、企業がDXなど新たな分野での専門的な知識や技術を習得するための訓練を実施した場合に、費用を手厚く助成する仕組みだ。

 また、地方行政の取組みも重要だ。広島県では、リスキリングに取組む企業と従業員を支援するプロジェクトを推進、企業が人材育成の取組みを自由に記載して宣言するリスキリング推進宣言制度も開始。宣言企業は県のホームページに掲載されるが、1年で100社を超えたようだ。

 宣言企業のメリットとして、ITパスポート試験の対策講座や受験料が補助されるといった特典がある。宣言企業がリスキリングに熱心と評価されれば、人材確保に繋がる面もあるだろう。

 中小企業には、そもそもリスキリングを何から始めたらよいか分からないという声が多いが、宣言企業の取組みがヒントになることも広島県は期待しているようだ。

 企業や行政の取組みが身を結ぶためには、個人の意識の高さも重要。千葉県では、有業者の学習・自己啓発・訓練の時間が全国5位(社会生活基本調査2021)と高い点は心強い。

 千葉県でも企業、行政、個人の意識が高まり、リスキリングの取組みが拡がることを期待する。

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