Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

今後の消費回復は所得増加に支えられた姿に

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2023年7月19日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 日本全体の個人消費の動きをみると、20年に大きく落ち込んだあと、サービス消費中心に緩やかな回復傾向を辿り19年の水準に接近しつつある(図1)。

 昨年春以降は、輸入品を中心とした物価上昇が心理面にマイナスに働きつつも、行動制限の緩和・廃止がコロナ禍に抑制された消費を顕在化させてきた。コロナ禍に100兆円規模で上積みされた金融資産が、物価高のもとでの消費増を可能としてきた面もあった。

 問題は夏以降、行動制限廃止の押上げ効果が出尽くしたとしても、個人消費が増加を続けるかどうか。その際、重要なのは物価上昇の影響を除くベースでみた家計の所得動向だ。

 この点、消費者物価と賃金の動きをみると(図2)、これまでは物価が賃金の上昇ペースを明確に上回ってきたが、今後はその関係が変化し、物価の影響を除いた賃金(実質賃金)が改善に向かうと期待される。雇用の伸びも経済活動の回復に伴って緩やかに高まっており、当面その傾向を維持しそうだ(図3)。

 実質賃金の動きについて補足すると、消費者物価の前年比は、+4%程度をピークに輸入物価反落の影響から鈍化しつつあり、年末にかけて+2%前後まで低下する可能性。一方、賃金の前年比は、良好な春闘の結果を反映し所定内給与を中心に+2%を上回っていきそうだ。

 つまり、今後の家計全体の所得は、実質賃金・雇用者数の両面から緩やかに改善し、これが個人消費を支える姿になっていくと期待してよい。

 主な留意点は2つ。第1に、家計全体として所得が改善するとしても、賃上げ動向や物価高の影響は家計によってかなり異なるため、消費のバラツキが大きくなる可能性。第2に、円安が再加速すれば輸入物価が再び上昇し、消費全体の抑制に働く可能性。一応注意しておきたい。

●当ウェブサイトに記載されているあらゆる内容の著作権は、株式会社ちばぎん総合研究所及び情報提供者に帰属し、いかなる目的であれ無断での複製、転載、転送、改編、修正、追加など一切の行為を禁じます。