Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

新たな経済対策はインフレ促進的に

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2023年9月26日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 岸田総理は昨夜、10月をめどに新たな経済対策を策定する方針を表明した。柱は、①物価高から国民生活を守る、②持続的な賃上げ・所得向上と地方の成長、③成長力につながる国内投資促進、④人口減を乗り越え変化を力にする社会変革(デジタル改革など)、⑤国土強靱化など国民の安心・安全の確保、の5つ。

 具体的な対策の内容や規模は今後検討されるため経済への影響はまだ不透明だが、円安・輸入インフレを起点とした物価高を促進しうるものとの印象を持つ。

 理由の第1は、円安・物価高が続き経済も正常化している中で、本来は刺激的なマクロ政策が不要なところ、超低金利の継続に積極的な財政支出が加わること。内閣府の推計によると、4~6月時点の需給ギャップ(経済全体の需要と供給の差)は4年弱振りにプラスに転じており、経済の正常化を示すものだ。

 第2は、物価高対策としてガソリン・光熱費への補助金の継続方針が示されているが、これは国民の省エネへの意識を希薄化させ、原油輸入→貿易赤字→円安・物価高→補助金という「悪循環」を長引かせかねないこと。本来作用すべき価格メカニズムを弱めてしまうリスクだ。政策的には、過度な円安の修正につながる超低金利の修正が優先されるべきであり、エネルギー高に対しては、それを引き下げる補助金より省エネ促進策の方が望ましい。

 ただ岸田総理は、経済対策の目的の一つとして、日本経済が、長年続いてきたコストカット型の経済から30年ぶりに歴史的転換を着実に図れるよう、強力に政策的に後押ししていくことを挙げている。この経済対策の結果として円安や物価高が止まらないとしても、それも梃子にしつつ「デフレからの完全脱却」を優先するとの決意のようにもみえる。

 長い目でみた成長力強化に資するような財政支出は重要とは思うし、デフレ脱却を優先する方針も理解はできなくはない。同時に、現下の経済・物価状況を踏まえると、そろそろ金融・財政政策ともに、経済や物価の行き過ぎの回避をより意識すべき局面に入りつつあるようにも思える。いずれにせよ、今回の経済対策の具体化を含め、政府・日銀には健全な国民経済の発展に向けた適切な舵取りを期待したい。

 企業経営としては、①輸入コスト高を含めインフレ的な状況が続きそうであること、②賃上げを含めた人への投資が重要な課題であることなどを十分に意識した上で、経済対策で具体化される措置も活用しながら、企業価値向上に取り組んでいくことが大事だ。

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