Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

人的資本経営の重要性─生産性本部シンポジウム

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2023年10月24日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 10月半ば、千葉県生産性本部主催の「人的資本経営時代の“人的投資・人材育成・働きがい”を考える」をテーマとするシンポジウムが開催された。

 日本生産性本部上席研究員、ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事、カイラボ代表取締役のお三方が、それぞれ人的投資の現状、リスキリング、人材の採用・育成・定着といった観点から事例を報告され、それを受けて私が司会を務める形でパネルディスカッションを行った。

 人的資本経営とは“人材を「資本」として捉えその価値を最大限に引き出し、中長期的な企業価値向上につなげる経営”とされる。大きな環境変化や構造的な人手不足のもと、岸田政権が「新しい資本主義」で「人への投資」を第一の柱に位置付けたこともあって、注目が高まっている。

 以下では、参加者のご意見の中から、特に印象に残った幾つかの点を挙げてみたい。

 ①内閣府の経済財政白書によると、平均的には人的資本投資額が1%増加すると労働生産性は0.6%上昇。90年代のバブル崩壊後、日本企業は一貫して人材投資を減少させ、主要国でも目立って低い。企業は自らの人材投資を十分に把握したうえで、有効な投資を増加させる必要。

 ②リスキリングという言葉は「転職のために個人の責任で行うもの」との認識で使われている感があるが、本来は企業が環境変化に対応するために行う人材投資。企業としては、社内に存在するスキルの棚卸を行ったうえで、社員には就業時間内にリスキリングを行わせる必要。

 ③リスキリングについては、スキル育成そのものも大事だが、効果的に生産性や企業価値の向上に繋げるためには、企業が成長事業や必要なスキルを社員に明確に示すことなどで、マインド面に働きかけることがより重要。

 ④最近は若手の採用・定着が困難化。若手にとっては企業の安定性も大事だが、自分が成長できるかどうかがより重要。その意味では、ホワイトすぎる企業は好まれない傾向があるほか、リスキリングに力を入れ成長機会を提供する企業と評価されれば採用・定着に繋がりやすい。

 ⑤今後は若年人口が減少するもとで、シニア層の活躍に向けたリスキリングも必要。その際、リスキリングが本人の前向きな未来に繋がる、シニアの新分野での挑戦が社内で尊重される(心理的安全性が確保される)、といった点での納得感が大事。

 人的資本経営は様々な形があり得るが、多くの企業にとって貴重なヒントがあると思われた。シンポジウムの詳しい内容は当社のマネジメントスクエアに掲載予定(本年12月号)であり、皆さまに参考にしていただければ幸いである。

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