Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

DX、GXそして“NX”

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2023年11月9日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 コロナ禍を契機にDXが広まり、ここ2年ほどは脱炭素の意識の高まりからGXも浸透。DXとGXは、それぞれデジタル化と脱炭素の取組みにより社会経済システムの変革を目指す戦略とされる。

 さらに、最近ではNXという概念がでてきている。NXはNature-based Transformationの略で、「自然資本を守り活用する社会への変革」を意味する。自然破壊などを止め自然資本をプラスに転じさせる「ネイチャーポジティブ」に向けた企業等の活動が重要との考えだ。

 自然資本とは森林、土壌、水、大気、動物、植物などのことで、生物多様性と相互に関連する。自然資本は、食料の供給、水の貯留、気候の調整など、人間生活に様々な便益を生み出すが、近年は経済発展に伴い急速な勢いで失われている。このため、自然資本や生物多様性は、気候変動やそれを抑制する脱炭素に続く、大変革が必要なテーマとして世界で意識され始めている。

 NXが日本でも広まり始めたのは、以下のような関連する出来事が続いたことによる。

 ①22年12月に国連が「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」を採択。「自然と共生する世界」という2050年ビジョンを掲げ、取組み方針を提示。

 ②23年3月に日本政府が「生物多様性国家戦略23-30」を閣議決定。

 ③4月に日本が主催するG7気候・エネルギー・環境大臣会合で「ネイチャーポジティブ経済アライアンス」を創設。

 ④4月に環境省が「企業や自治体等の取組みによって生物多様性の保全が図られている区域」を「自然共生サイト」として認定する仕組みを開始。10月には全国で122か所を初認定。

 ⑤5月に自民党が「NXへ実行の時」を岸田首相に提出し、23年度中に「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」を策定することなどを提言。

 ⑥9月に「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」というグローバル組織が最終報告を提出。企業活動による自然資本への影響に関する情報開示を促す仕組みを創出。

 「自然資本」は多岐にわたるため、脱炭素に比べ具体的な目標が設定しにくいものであり、NXが今後どの程度広がるか不透明だ。ただ、世界の潮流はNXに向かい始めており、企業や自治体が「自然資本」を修復する取組みを行うことが当たり前の時代が来るかも知れない。

 日本の上場企業の一部では、情報開示に取組む動きが始動。千葉県でも、君津グリーンセンターなど6か所の「自然共生サイト」が認定された。自民党の提言では、自然への負荷が小さい資源調達への切替えや先端技術を活用した自然資本の保全等によって、ビジネス機会が生まれるとも指摘。自然に恵まれた千葉県に位置する企業としても頭の片隅に置いておきたい。

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